乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)の事件/事例8選!いつまで注意が必要?症状と後遺症・無罪が多い理由も徹底解説

乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)は赤ちゃんが過度に揺さぶられたことで脳内に出血が起こり、死亡したり後遺症が残る病態です。

 

今回は乳幼児揺さぶられ症候群の症状や後遺症、いつまでリスクがあるのか、事件・事故と無罪が多い理由を解説します。

乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)とは

 

乳幼児揺さぶられ症候群とは、赤ちゃんの身体を過度に揺さぶることで、主に頭蓋内で内出血が起こる外傷のことです。

 

生まれて間もない赤ちゃんは首が座っておらず、頭蓋骨の隙間が大きいことから、過度に揺さぶると、脳内で出血が起こり、場合によっては死に至ることがあります。

 

この乳幼児揺さぶられ症候群は、次のように呼ばれることもあります。

 

・揺さぶられっ子症候群
・乳児揺さぶり症候群
・Shaken Baby Syndrome
・SBS

 

乳幼児揺さぶられ症候群は、1972年にアメリカで初めて報告されて以降、欧米で注目されていた症例ですが、日本でその危険性が取り上げられるようになったのは2000年前後からです。

 

2002年には、母子手帳にもその危険性・注意喚起が記載されるようになりました。

 

 

乳幼児揺さぶられ症候群が起こる状況とは

 

乳幼児揺さぶられ症候群が起こるのは、次のような状況であることがわかっています。

 

・頭を2秒間に5~6回揺する
・体を10秒間に5~6回揺する
・体を20分間左右に揺する
・「高い高い」で投げてキャッチすることを繰り返す
・両手で支えた状態で「高い高い」を繰り返す
・ゆりかごを激しく揺する
・あやそうとして激しく振り回す
・新生児用ではないチャイルドシートに乗せて長時間ドライブする

 

  • 「乳幼児揺さぶられ症候群=虐待」と考える人も少なくありませんが、実は日常内のちょっとした不注意でも起こりえるものです。
  •  
  • 虐待とは無縁で、子供を愛し、喜ばそうと思って、少し激しく揺さぶった時でも、乳幼児揺さぶられ症候群は起こる可能性があります。
  •  

 

乳幼児揺さぶられ症候群の症状とは

 

乳幼児揺さぶられ症候群になると、次のような症状が起こると言われています。

 

・元気がなくなる
・機嫌が悪くなる
・傾眠傾向でウトウトした状態が続く
・嘔吐する
・ミルクや母乳、離乳食をいつものように飲む・食べることができない
・けいれん
・意識障害がある
・呼吸困難が見られる
・意識がなく昏睡状態になる

 

また、病院で乳幼児揺さぶられ症候群かどうかを見極めるために、次の3つの病態が出ているかどうかを見ます。

 

・硬膜下血腫
・眼底出血
・脳浮腫

 

赤ちゃんに硬膜下血腫、眼底出血、脳浮腫の3つの症状が出ている場合は、乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)と診断されることがあります。

 

 

乳幼児揺さぶられ症候群はいつまで気を付けるべき?

 

乳幼児揺さぶられ症候群は、いつまで気を付けるべきなのでしょうか?

 

一般的に、乳幼児揺さぶられ症候群が起こるのは生後6ヶ月以内とされています。

 

しかし、生後6ヶ月を経過すれば、もう乳幼児揺さぶられ症候群のリスクはない、激しく揺らしても大丈夫というわけではありません。

 

実際に、生後10ヶ月の男の子が乳幼児揺さぶられ症候群と診断されたこともあります。

 

また、小児科医は次のように述べています。

 

2歳以下、なかでもまだ首がすわっていない生後6か月未満のお子さんは特に注意が必要です。

 

引用:激しい頭の揺れは「揺さぶられっ子症候群」に注意! 小児科オンラインジャーナル

 

一般的には、体の発達・筋力・頭蓋骨の状態を考えると、生後6ヶ月以内は特に乳幼児揺さぶられ症候群に気を付けなければいけません。

 

ただ、生後6ヶ月以降でも2歳以下(3歳になるまで)は乳幼児揺さぶられ症候群のリスクはあると考えて、子供の過度の揺さぶりには気を付けましょう。

 

 

乳幼児揺さぶられ症候群は後遺症が残るリスクが高い

 

乳幼児揺さぶられ症候群は、後遺症が残るリスクが高いとされています。

 

乳幼児揺さぶられ症候群は脳内で内出血が起こり、前述のように以下のような病態が現れることがあります。

 

・硬膜下血腫
・眼底出血
・脳浮腫

 

脳内に出血が起これば、後遺症が残るリスクが高まります。

 

乳幼児揺さぶられ症候群は致死率15%,障害を残す可能性50%以上の予後不良な疾患である.虐待を疑った場合の社会的対応や予防のための育児支援が重要である.

 

引用:CiNii 論文:乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken Baby Syndrome)の1例

 

徳島赤十字病院の報告によれば、乳幼児揺さぶられ症候群の致死率はなんと15%と非常に高く、後遺症が残るのは50%以上となっています。

 

症例の半数以上に後遺症が残るなんて、とても怖いですね。

 

また、乳幼児揺さぶられ症候群の後遺症として、次のようなものがあります。

 

・視力の低下
・失明
・難聴
・運動障害
・言語障害
・言葉の遅れ
・知的障害
・てんかん発作
・脳性麻痺

 

乳幼児揺さぶられ症候群で重症になり、予後が悪いと、寝たきりになってしまい、手足が動かないどころか、自分の力で寝返りを打つことができなくなるほどの後遺症が残ることもあります。

 

米山医師は「手足が不自由になり、寝返りもできないくらいの、いわゆる寝たきりの重症心身障害児になるお子さんたちもいます」と話しています。
「ことばでも、意味のあるものを話さないとか、さらに、てんかんを合併することもあります。医療的なケアが、より必要になるお子さんたちも多い」と指摘します。

 

引用:「乳幼児揺さぶられ症候群」の実態 | 子ども・子育て | NHK生活情報ブログ:NHK

 

乳幼児揺さぶられ症候群は、両親・保護者が正しい知識を持っておかないと、例え悪意がなく、あやそうとしただけでも、子供に重い後遺症が残り、取り返しがつかないことになるのです。

 

 

乳幼児揺さぶられ症候群の事例・事件① 有罪3選

乳幼児揺さぶられ症候群の事例・事件を見ていきましょう。

 

保護者の虐待により、乳幼児揺さぶられ症候群になり、裁判で有罪判決となったケースです。

 

2011年:横浜市での事例

 

2011年3月に横浜市で起こった事例から見ていきましょう。

 

2011年3月22日、生後5ヶ月の女の子が両親に連れられて病院を受診しました。その後、その病院では対応が困難だったために、市内の病院に救急搬送されています。

 

救急搬送先の病院で急性硬膜下血腫や網膜出血などが認められ、虐待が疑われたため、児童相談所に通告がありました。

 

そして2012年7月、生後5ヶ月の娘を虐待し、激しく揺さぶった可能性があるとして、父親が逮捕されました。

 

また、捜査によって、乳幼児揺さぶられ症候群の事例が起こる約1ヶ月半前の2月7日に、この女児は右ほほに哺乳瓶を押し当てたようなやけどで病院を受診していたことも判明しました。

 

この虐待による乳幼児揺さぶられ症候群の事件で、女の子は脳や両目に重度の障害が残っています。

 

父親は逮捕当初は容疑を否認していましたが、裁判では起訴事実を認め、懲役3年・保護観察付執行猶予5年の判決が言い渡されました。

 

 

2010年:湖南市での事例

 

2010年に滋賀県湖南市で、母親による虐待で乳幼児揺さぶられ症候群が起こり、4ヶ月の女の子が死亡する事件が起こりました。

 

両親は不妊治療の末、結婚から7年後にようやく妊娠しましたが三つ子であることが判明。子供・母体へのリスクを考えて減胎手術を受け、2010年3月に女の子の双子を出産しました。

 

父親は会社の昼休みに育児のためにいったん家に帰ることもありましたが、母親は基本的に1人で双子の育児をしていて、周囲には頼れる近親者はいない状態でした。

 

そして、乳幼児揺さぶられ症候群の事件が起こります。

 

2010年10月21日、母親は泣き止まない生後6ヶ月の女の子を抱っこして、左右に数回激しく揺さぶりました。

 

女の子はぐったりした状態になり、滋賀医科大学付属病院に搬送されましたが、急性硬膜下血腫による脳腫脹で死亡しました。

 

警察は司法解剖の結果、乳幼児揺さぶられ症候群による外傷性硬膜下血腫での死亡であると判断し、母親を傷害致死容疑で逮捕しました。

 

裁判での求刑は懲役4年でしたが、判決は懲役3年・執行猶予4年の判決となりました。

 

 

徳島県での事例

 

徳島県では、生後4ヶ月の男の子が意識障害で徳島赤十字病院に搬送された事例がありました。

 

父親は仕事で忙しく、2歳の兄と生後4ヶ月の男の子の育児を1人で行っていた母親は育児疲れの状態になり、イライラすることが多かったようです。

 

そして、事件当日は兄弟2人とも泣き出して、母親のイライラはピークに達し、生後4ヶ月の子供の腹部を平手で2~3回殴り、その後に縦抱きにして激しく揺さぶりました。

 

その後、男の子は泣き止んだものの普段と様子が違ったために、母親は父親に電話で相談し、救急車を呼んで病院に搬送しました。

 

病院から児童相談所に通報が行き、母親の虐待による乳幼児揺さぶられ症候群として扱われることになります。

 

この子は一時は人工呼吸器管理となったものの、入院から17日目に退院しました。

 

しかし、入院前は追視や首の座りがあったのに、退院時はなくなっていて、成長の退行が見られるようになっています。

 

また、この子は1歳を過ぎたところで、てんかん発作が出るようになり、これも乳幼児揺さぶられ症候群の後遺症と見られています。

 

 

乳幼児揺さぶられ症候群の事例・事件② 無罪5選

乳幼児揺さぶられ症候群の事例・事件、次は保護者が無罪になったケースを見ていきましょう。

 

実際は乳幼児揺さぶられ症候群ではなかったけれど、裁判沙汰になったケースです。

 

2014年:大阪市での事例

 

2014年12月に生後1ヶ月の女の子を自宅マンションで激しく揺さぶって急性期硬膜下血腫を発症し、意識障害になったとして、母親が傷害罪の疑いで逮捕されました。

 

この事件は、乳幼児揺さぶられ症候群でよく起こる急性期硬膜下血腫があったために、母親による虐待の可能性があるとして、第一審では有罪となりました。

 

しかし、第二審では女の子の兄(当時2歳半)がテーブルから引きずり落とした可能性があるとして無罪になり、最高裁でも第二審での判決が支持されて無罪が確定しました。

 

 

2016年:大垣市での事例

 

2016年5月、岐阜県大垣市で生後3ヶ月の長男を激しく揺さぶったとして、乳幼児揺さぶられ症候群の虐待として母親が傷害罪で逮捕されました。

 

この男の子は自宅で負傷し、硬膜下血腫・眼底出血・脳浮腫と乳幼児揺さぶられ症候群の典型的な3つの症状が見られたため、母親が長男を激しく揺さぶったのでは?と疑われたのです。

 

母親はソファーの上で授乳クッションを枕にして寝ていたら、子供がソファーから落ちたと話し、容疑を否認していました。

 

2021年に岐阜地裁はソファーから落ちた場合も、このような外傷が残ることは否定できないとして、母親に無罪判決を言い渡しています。

 

 

2016年:大阪市での事例

 

2016年4月、山内泰子さんは大阪市東淀川区にある次女の家に遊びに来ていて、次女が買い物に行く間、当時2歳3ヶ月と生後2ヶ月の女の子の面倒を見ることになりました。

 

2時間後、昼寝をしていた生後2ヶ月の女の子は顔色が悪くなり、呼吸に異常が見られたため、すぐに病院に搬送されましたが脳死の状態であり、事件から3ヶ月後に死亡しました。

 

そして、山内泰子さんによる孫の虐待・乳幼児揺さぶられ症候群の可能性があるとして、山内さんは傷害致死容疑で逮捕・起訴されたのです。

 

第一審で懲役5年6ヶ月の実刑判決が言い渡されましたが、第二審で乳幼児揺さぶられ症候群による死亡ではなく、病死(内因性の脳静脈洞血栓症)の可能性があるとして無罪になりました。

 

 

2017年:町田市の事例

 

2017年1月13日、東京都町田市の自宅で生後1ヶ月の長女を揺さぶってけがを負わせた容疑で父親が逮捕される事件がありました。

 

この長女は多発性硬膜下血腫や脳浮腫が認められ、蘇生後に脳症となり、さらに肺炎を発症して事件から約2ヶ月後に死亡しています。

 

長女の具合が悪くなったのは母親が入浴中のことで、誰も目撃者がいない時、父親以外に長女に暴行を加えることができた人物はいませんでした。

 

しかし、逮捕された父親はそれまで長女に虐待のようなことをしたことはなく、母親の証言もありました。

 

父親自身も容疑を一貫して否認していたこと、さらに父親のによる乳幼児揺さぶられ症候群以外の可能性を否定できないため、一審・二審ともに無罪となりました。

 

 

2017年:大阪市での事例

 

2017年8月、大阪市内の自宅で夫が不在の時に、生後7ヶ月の長男がソファーでつかまり立ちをしていたら、後ろに倒れて転倒し、後頭部を打って意識不明になった事例がありました。

 

病院で男の子の外傷の状況から、母親による乳幼児揺さぶられ症候群の可能性があるとして、警察が介入し、母親を傷害容疑で逮捕しています。

 

母親は容疑を否認していましたが、虐待から乳幼児揺さぶられ症候群になったとして、警察で厳しい取り調べが行われました。

 

逮捕から3ヶ月後に、母親は嫌疑不十分で不起訴処分となり、ようやく釈放されました。

 

ただ、長男は知的障害や下半身の麻痺が残ることになったようです。

 

 

乳幼児揺さぶられ症候群の事例は無罪が相次いでいる

 

乳幼児揺さぶられ症候群での虐待の傷害容疑は、ここ最近は無罪になることが多々あります。

 

日弁連によると、2017年以降のSBSが疑われた34の刑事事件のうち、28日の判決も含め少なくとも半数以上の18件で無罪判決が出ている。

引用:乳幼児への虐待等の裁判で無罪判決相次ぐ…背景にある「理論の否定」“SBS=乳幼児揺さぶられ症候群”とは

 

2017年以降に刑事裁判になった事件では、半分以上が無罪になっているのです。先述の事例でも無罪判決になったものが多かったですよね。

 

刑事裁判全体で見ると、無罪になるのは非常に珍しいことなのに、乳幼児揺さぶられ症候群の事件では半分以上が無罪。

 

なぜ、こんなことが起こっているのでしょうか。

 

これは、そもそも乳幼児揺さぶられ症候群と判断する際の厚生労働省の通達が関係しています。

 

厚生労働省も2013年に改定した児童相談所向けの虐待対応マニュアルで乳児に硬膜下血腫が生じた場合、「(親などが)家庭内の転倒や転落だと訴えたとしても必ずSBSを第一に疑わなければならない」と書かれていて、実際にこれを根拠に親が子供と引き離されたり、傷害や傷害致死の罪で起訴されたりするケースが多くありました。

 

引用:母親が負った三重苦…虐待の根拠として定着「乳幼児揺さぶられ症候群」疑問突き付ける無罪判決 | 東海テレビNEWS

 

乳幼児に硬膜下血腫が生じたら、必ず乳幼児揺さぶられ症候群を疑う」となっています。

 

つまり、目撃証言がない限り、密室の自宅で転倒などが原因で硬膜下血腫が起こっても、乳幼児揺さぶられ症候群として扱われ、逮捕・起訴される可能性が高いのです。

 

しかし、起訴されたとしても、ほかの転倒・事故・病気などの可能性を否定できないなら、無罪になるということなのでしょう。

 

 

乳幼児揺さぶられ症候群のまとめ

乳幼児揺さぶられ症候群の症状や後遺症、いつまでリスクがあるのか、乳幼児揺さぶられ症候群の事件・事例や無罪が多い理由などをまとめました。

 

乳幼児揺さぶられ症候群は大人の知識不足で起こる可能性があります。また、無罪が多いとは言え、全部が無罪ではなく虐待により起こることもあるのは事実です。

 

判定が難しいですが、乳幼児揺さぶられ症候群は防げるものですから、きちんとした知識を持っておきたいですね。

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