豊田商事による組織ぐるみの大規模詐欺事件「豊田商事事件」は、首謀者とされた会長・永野一男がマスコミの目の前で突如刺殺されるという衝撃の展開になりました。
ここでは「豊田商事事件」について改めて解説し、刺殺の犯人や動画、事件の黒幕の噂や現在も暗躍を続けているという残党についてもまとめました。
この記事の目次
豊田商事事件は史上最大被害額の詐欺事件
「豊田商事事件」とは、1985年に発覚し社会問題化した、豊田商事株式会社という詐欺企業によって引き起こされた、組織的大規模詐欺事件です。
豊田商事の詐欺手口
豊田商事は地金を取り扱う企業の体を取り、顧客に地金を販売する形でその購入代金を受け取っていましたが、顧客に金の現物を渡す事はなく、その代わりに「純金ファミリー契約証券」という何の価値もない紙切れを証券として渡します。
金の実物は豊田商事が預かるという形をとり、その利息分を順次支払うという契約が顧客と結ばれるのですが、実際には金の購入はされていません。つまり、顧客は事実上何の価値もない紙切れを高額で売りつけられる事になるわけです。
これは、いわゆるペーパー商法(現物まがい商法)と呼ばれる手口で、顧客は実物の金が実際には購入されていないにも関わらず自分が金を所有できていると思い込み、豊田商事に金を騙し取られてしまうというものです。
豊田商事は、全国に約60ヶ所の営業所を展開し、事務所を豪華な内装、調度品で装い、金の延べ棒のフェイク品をガラスのショーケースの中にこれ見よがしに積み上げ、高級な雰囲気を醸し出すパンフレットなどの小道具も周到に用意する事で顧客を信用させていました。
こうした手口によって、被害者は2万9000人(実際には顧客数5万から6万とも言われている)、被害総額は2025億円にものぼり、これは現在(2020年時点)までに摘発されている詐欺事件の中で最大の被害額です。
ターゲットにされたのは身寄りのない老人など弱い立場の人々
豊田商事は、高齢の独居老人や身寄りのない老夫婦、母子家庭や障害を持つ人など、弱い立場にある人々をターゲットとし、脈があると思えばすぐに担当の営業マンを家に押しかけさせ、身辺の世話をするなど親切にして見せ、「材料を買ってきたから一緒に夕食を食べよう」「自分の事は息子と思って頼りにしてほしい」などと情に訴えかけるようにしてその人を信用させ、契約を結ばせるという手法をとりました。
こうした手法を使い、豊田商事の営業マンは徐々に顧客を信用させていき、地金を少しずつ追加購入させ、最後には通帳から印鑑から何もかもを預かってしまい、その資産を根こそぎ奪い取ってしまうのです。
系列会社も詐欺企業ばかり
2000億円もの金を騙し取った「豊田商事」でしたが、その上部会社として「白道」「銀河計画」という会社があり、その傘下にいくつもの系列会社が存在していました。そして、これらの系列会社は全てが何らかの詐欺まがいの商法に手を染めていました。
例えば「ベルギーダイヤモンド」という会社は価値のないクズダイヤモンドを商品にしたマルチ商法を展開して莫大な被害額を出しています。また1984年に新規で設立された「鹿島商事」という会社は、地金ではなくゴルフの会員権を商品とした「ペーパー商法」を行い、全国の約7000人を騙し、70億から90億円もの金を集めています。
このように、いくつもの系列会社からなる豊田商事グループ(白道、銀河計画)は、詐欺まがいの商法ならなんでもやるという1大詐欺集団だったのです。
豊田商事の会長・永野一男はマスコミの目の前で刺殺されている
この「豊田商事」の会長が、永野一男(事件発覚時32歳)という男でした。この永野一男は、1985年6月18日、「豊田商事事件」が世間で問題になる中、取材に押しかけたマスコミ関係者40名の目の前で、突然自宅に押しかけた二人組の男に襲撃され刺殺されています。
その日、永野一男が逮捕されるという情報が流れ、その自宅マンション玄関前に40名ものマスコミ関係者が詰め掛けていました。
16時30分頃、その自宅マンションに2人の男が姿を現します。毎日新聞の記者の西村氏が「何をしに来たのか?」と尋ねると、2人組の男の年長の方が「豊田商事事件」の被害者6人から「もう金はいいから永野をぶっ殺してくれ」と頼まれたと答えました。
その男は、マスコミ陣が持ち込んでいたパイプ椅子を持つと、それで永野一男の部屋の玄関ドアを強く叩き始めます。さらに、もう1人の男が窓に取り付けられた防犯用の格子を破壊し、さらに2人の男は窓を破って中に侵入します。
部屋内から激しく争う物音が聞こえ、その約90秒後に血だらけになった2人の男が窓から出てきて「おい警察呼べはよ。俺が犯人や」とマスコミ関係者らに言いました。
2人の男は、マスコミからのいくつかの質問に答えた後タバコを要求し、エレベーターに乗ってマンションの外に出たところを駆けつけた警察官に現行犯逮捕されています。
部屋の中では永野一男が血だらけで倒れており、頭部など13ヶ所を銃剣で刺されていました。その後、永野一男は病院に搬送されましたが、17時15分に出血多量での死亡が確認されています。
豊田商事会長・永野一男の生い立ち
こうして突然殺害された、豊田商事会長・永野一男は、1952年8月1日の生まれで、岐阜県恵那市の出身でした。小学校卒業後に島根県の母方の叔父の家に預けられ、そこで中学を卒業しています。
1968年、集団就職で日本電装(現在のデンソー)に入社し2年ほどで退職。その後は消化器販売会社をはじめいくつもの会社を転々とし、「武地」という先物取引を扱う会社で好成績を上げるも、顧客から預かった3000万円を無断で小豆相場に注ぎ込んで損害を出し、それが原因で解雇されています。
1976年3月30日には、岐阜県の大垣競輪場のトイレでスリを働いたのがバレて逮捕されています。
その後の1981年4月22日に永野一男は、「豊田商事」の前身となる「大阪豊田商事」を設立。会社名に「豊田」と入れた理由は、自身がトヨタ関連の「日本電装」で働いていた事と、大企業であるトヨタ自動車の関連会社だと勘違いさせる事を狙ったためだとされています。
そして、永野一男は「豊田商事事件」を引き起こし、2000億円もの大金を騙し取る事になり、その被害者の元上司を名乗る男ら2人の襲撃を受けて刺殺され1985年に32歳の若さでこの世を去る事になったのでした。
豊田商事の会長・永野一男を刺殺した犯人
豊田商事の会長・永野一男を刺殺した犯人の男2人についても見ていきます。
永野一男を殺害した2人の犯人は、大阪豊中市の自営業・飯田篤郎(事件当時56歳)、その飯田篤郎に恩があるという建築作業員・矢野正計(事件当時30歳)の2人でした。
主犯は飯田篤郎と見られ、直接の「豊田商事事件」の被害者ではないものの、高齢者を騙して大金を奪った豊田商事を許せず、知人に頼まれた事が犯行の動機だったようです。また、共犯の矢野正計は飯田篤郎に恩があったため協力したという事でした。
飯田篤郎と矢野正計は、当初は永野一男を殺害するつもりはなく、裁判所に出頭させる目的でマンションを訪れたが、マスコミに「やれやれ」と煽られたので殺害してしまったなどと供述しています。
その後の裁判で主犯の飯田篤郎には懲役10年の実刑判決、共犯の矢野正計には懲役8年の実刑判決がそれぞれ下されています。
豊田商事の会長・永野一男刺殺時の衝撃の動画
この「豊田商事会長刺殺事件」は、マスコミの面前で突如発生したため、その時の映像や写真が多数残されています。上の動画は永野一男刺殺時の一部始終を捉えた衝撃的な動画です。かなり刺激の強い動画なので視聴には十分注意してください。
また、写真週刊誌「FOCUS」は、飯田篤郎に羽交い締めにされて断末魔の表情を浮かべる永野一男と、その傍らで銃剣を持ち鬼気迫る表情を浮かべて立つ矢野正計の姿を激写し、それを誌面に掲載しています。また、毎日新聞はじめ、各新聞もこの時の様子を写真付きで掲載しています。
これらはあまりに衝撃的な写真だっため、批判を集める事になりました。
豊田商事事件には黒幕がいる?
実はこの「豊田商事事件」には不可解な点が数多くあります。そのため、この事件には、本当は裏に会長の永野一男を操っていた黒幕がいるのではないかとの噂が根強く囁かれているのです。
その根拠となっているいくつかの不可解な点から黒幕説について見ていきましょう。
奪われた金のほとんどが行方不明
まず何よりも2000億円以上とも言われた巨額の被害金の行方のほとんどが不明のままです。
事件後、被害者の救済措置のため、弁護士の中坊公平氏率いるチームが奪われた金の回収作業にあたりましたが、それによって被害者も元に戻ったのは200億円ほどでした。つまりは、1800億円もの金の行方が不明のままなのです。これほどの大金の動きが全く掴めないというのはあまりにも不可解です。
「豊田商事」から政治家や宗教法人、暴力団などへと金が流れていた?
実は「豊田商事」から、大物政治家や宗教法人、暴力団組織へと詐取した金が流れていたのでは?との疑惑も存在します。
この中で確定しているのが、宗教法人「浄土真宗親鸞会」への1億3000万円もの寄付です。この寄付金は豊田商事破産後に、全額が破産管財人に返還されています。この他、複数のスポーツ関連団体が豊田商事からの資金提供を受けていた事が判明しています。
しかし、本当の闇を感じるのは政治家がらみの噂です。高名なジャーナリストである一橋文哉氏の書籍によれば、豊田商事には当時の自民党の大物幹部や、農林水産省系の大物議員、をはじめ多数の大物政治家が豊田商事に絡んでいたとされています。
また、この他にも暴力団や右翼関係者、総会屋などにも年間100億円単位の資金を流していたとされ、行方の分からない1800億円の大部分は政治家や闇社会へと流れたのではないか?との疑惑が浮上しているのです。
永野一男の生活があまりにも質素すぎる
これを裏付けるように、豊田商事の会長の永野一男の生活は、国家予算レベルの莫大な金を詐取していたとは思えないほど質素なものでした。刺殺事件が発生したマンションにしても、オートロックもないごく普通のマンションであり、永野一男は殺害された時わずか711円鹿所持していませんでした。遺品についてもめぼしいものは、30インチのテレビとカラオケセットだけだったといいます。
刺殺犯の動機がよくわからない
また、突如現れ永野一男を刺殺した飯田篤郎と矢野正計の動機「被害者に頼まれた」というのもいまいち腑に落ちません。
例え高齢者を騙す事が許せないという義心にかられたとしても、長い懲役を食らう可能性が高いリスクを負ってまで、個人的な恨みもない相手を殺害するものでしょうか?
永野一男刺殺時の状況に不審点が多い
そして、この刺殺犯の2人が現れた状況もあまりにも不審な点が多いです。事件が大騒ぎになり、マスコミが詰めかけているにも関わらず、永野一男のマンションには1人の警察官も警備に立ってはいませんでした。そのため、刺殺犯2人は簡単に侵入する事ができました。
そして、刺殺犯2人は窓を破り侵入してから、わずか90秒で永野一男を殺害しており、あまりにも手際が良すぎると感じます。
また、マスコミが集まっている所にタイミングよく現れ、インタビューを受けてから殺害に及ぶなどというのは、よく出来たデモンストレーションのようにしか見えません。
こうした状況から、一連の事件の黒幕の何者かが「永野一男が今日逮捕される」という情報を意図的にマスコミに流して報道陣を集めた上で、ヒットマンを差し向けて永野一男を殺害したのではないかとの疑惑が生じたのです。
つまり、永野一男を殺害して口を封じると同時に、マスコミに大々的に報じさせる事で、真相を知る者達に対して口を割らないように脅迫する意味もあったのではないかという事です。
豊田商事の残党が現在も暗躍
そんな数多くの謎を残したまま幕を閉じた「豊田商事事件」でしたが、問題の「豊田商事」の残党はその後も暗躍し、詐欺事件を起こし続けていると言われています。
2008年には、豊田商事の元幹部とされる北村一富という男が率いる「ワールドリゾート」という会社が摘発されています。2012年に摘発された先物取引の会社も豊田商事の残党によって運営されていたとされています。
現在も豊田商事の残党は次々と新手の詐欺手口を繰り出し暗躍を続けているとされています。
まとめ
今回は、史上最大の被害額2000億円の大規模詐欺事件で、詐欺を主導したとされる会長・永野一男がマスコミの目の前で突如刺殺されるという衝撃の展開を迎えた「豊田商事事件」についてまとめてみました。
「豊田商事事件」の手口は、地金を用いた「ペーパー商法(現物まがい商法)」で、実際にはない地金を言葉たくみに騙して購入させ、何の価値もない証券を顧客につかませるというものでした。
「豊田商事」の会長・永野一男の逮捕が目前とされる中、永野の自宅マンションにマスコミが押しかけましたが、その目前で突然現れた2人の男に永野が刺殺され、多くの謎を残したまま事件は闇に葬り去られました。
「豊田商事事件」は、あまりにも闇が深すぎる事件であり、今後、その真相が明るみに出る事はおそらくないでしょう。