昭和時代の衝撃的な通り魔事件とも言われている「深川通り魔殺人事件」は、犯人と被害者の意外な関係が話題です。
今回は「深川通り魔殺人事件」の経緯、犯人の川俣軍司の生い立ち、被害者との関係、犯人や遺族の現在をまとめました。
この記事の目次
深川通り魔殺人事件とは
今回紹介する「深川通り魔殺人事件」は、1981年6月17日に東京都江東区森下で発生した白昼の無差別通り魔殺人事件です。
犯人の覚せい剤の常習者で、幻覚妄想に取り憑かれながら凶行に及び、子供や女性を次々と無差別に襲って殺傷しました。
逮捕時の川俣軍司は上半身裸、下半身はブリーフと白のハイソックスという異様な姿だった事もあり、当時の社会を震撼させ、昭和時代でも1、2を争う衝撃事件として語り継がれています。
まず最初に、「深川通り魔殺人事件」の経緯について紹介していきたいと思います。
平和な白昼に突然の事件発生
1981年（昭和56年）6月17日の午前11時35分頃、東京都江東区森下2丁目の商店街路上で事件は起きました。
当時29歳で無職の川俣軍司が、突然持っていたバッグから刃渡り22cmの包丁を取り出し、凶行に及びます。
川俣軍司の正面方向から歩いてきた、長野博明君（当時1歳）をベビーカーに乗せ、女児・長野統子ちゃん（当時3歳）の手を引く母親・長野るみ子さん（当時27歳）へ襲いかかりました。
川俣軍司は猛烈な勢いで長野さん母子に突進し、ベビーカーに乗る長野博明君を包丁で2度刺してベビーカーごと突き飛ばします。
パニックになった長野るみ子さんは悲鳴をあげて逃げようとしますが、川俣軍司はその背中に2度包丁を突き立て、続けて呆然と立ち尽くす長野統子ちゃんの胸を4度滅多刺しにしています。
川俣軍司はさらに、ベビーカーから路上に投げ出されて血まみれで倒れていた長野博明君を再び刺して致命傷を与え、母子3人を瞬く間に殺害しています。
続けて3人の女性を襲撃
川俣軍司は、長野さん母子3人を殺害しても逃げ去る事無く、次の獲物へと凶刃を向けます。
母子3人殺傷現場付近でその惨劇に驚愕して立ち尽くしていた買い物帰りの女性・二本松美代子さん（当時33歳）へと突進し、腹部を刺して殺害。
さらに、ちょうどそのタイミングで停留所に停車したバスに川俣軍司は走り寄り、降りてきた当時77歳の女性・加藤貞子さんに体当たりした上、太ももをあたりを刺して重傷を負わせます。
また、近くの化粧品店から出てきた当時39歳の女性・吉野千鶴子さんも斬りつけて負傷させています。
この一連の凶行は、川俣軍司がバッグから包丁を取り出してから、わずか5分間の出来事でした。
近くの中華料理店に人質を取って立てこもる
瞬く間に4人を殺害、2人に重傷を与えた川俣軍司は、11時40分頃、付近を歩いていた当時33歳の女性・石塚真里さんを人質にして、中華料理店「萬来」に立てこもりました。
この時、営業時間前だった「萬来」の店内には客がおらず、川俣軍司は店内奥の自宅にいた夫婦を脅して店外へと出した後、人質女性を拘束して約7時間も籠城を続けています。
川俣軍司は立てこもりの間、人質の石塚真里さんを包丁で切りつけるなどして負傷させ、説得にあたった警察官に「うるさくすると刺すぞ、何人殺しても同じだ」などと威嚇しています。
また、「萬来」店内にあったテレビで自分の起こしたニュースが流れ、4人が死亡した事を知っても、川俣軍司は平然としていたそうです。
そして、時にはニヤつきながら、警察に差し入れさせたカレーライスやジュース、牛乳などを飲食していたと言います。
警官隊が突入し逮捕される
18時54分頃、川俣軍司の一瞬の隙をついて、人質の石塚真里さんが店外へと逃げ出します。
それを見た警官隊は一気に店内へと突入、川俣軍司は包丁を振り回して抵抗しますが、間も無く取り押さえられて逮捕されました。
この時、川俣軍司が連行される様子が詰め掛けたテレビ局によって生中継されました。
テレビに映し出された川俣軍司は、上半身裸、下半身はブリーフに白いハイソックスという異様な出で立ちで、口には猿ぐつわを咬まされていました。
そして鬼のように周囲を睨みつけた表情は、人々に強烈なインパクトを残しました。
深川通り魔殺人事件の犯人・川俣軍司の生い立ちや過去の犯行
あまりに凄惨な犯行内容と逮捕時の異様な出で立ちにより、人々に強烈なインパクトを与えた川俣軍司ですが、その生い立ちもまた極めて異常なものでした。
ここからは「深川通り魔殺人事件」の犯人・川俣軍司について掘り下げます。
川俣軍司の生い立ち
「深川通り魔殺人事件」の犯人・川俣軍司は、1952年（昭和27年）2月21日、茨城県の銚子市に利根川を挟んで隣接する、鹿島郡波崎町太田という場所で生まれました。
川俣軍司の父親はしじみ漁師で、兄と姉、2人の弟の5人兄弟でした。
川俣軍司は中学時代までをこの町で過ごし、卒業後に集団就職で上京し、築地の寿司店で住み込みで修行する事になります。
川俣軍司はこの寿司店で3年半、休日以外は1度も休まずに懸命に働き、先輩の寿司職人からも「見込みがある」と一目置かれる存在でした。
しかし、後輩として店に入ってきた少年院上がりの少年とソリが合わず、イジメられるようになり、それが原因になってこの店を辞めてしまいます。
その後、東京都江戸川区小岩の寿司店へと移籍した際、この店の先輩が刺青を入れているのに憧れて自分も刺青を入れた川俣軍司。
仕事中に客から酒を勧められて酔った挙句、客に絡んで刺青を見せつけて凄むなどしたため、わずか3ヶ月ほどで解雇されてしまいます。
逮捕される事を繰り返す
江戸川区の寿司店を解雇された後、川俣軍司は都内の寿司店を転々としますが、素行が悪く、すぐに解雇される事を繰り返します。
暴行や恐喝、強盗など事件も度々起こし、懲役刑や罰金刑を何度も受けています。
1972年9月、川俣軍司は恐喝罪での執行猶予期間中に暴行傷害事件を起こして逮捕され、前歴の執行猶予も取り消されて、合計で2年10ヶ月の間、川越少年刑務所に服役。
1975年9月に出所しています。
トラック運転手を経てしじみ漁師になるも度々逮捕される
出所後は寿司職人を辞め、秋葉原の運送会社でトラック運転手として働き始めますが、道路交通法違反や酒を飲んで暴れるなどを繰り返し、懲役10ヶ月の実刑判決を受けるなどしています。
1977年に刑務所から出所した川俣軍司は、実家に帰り、父親のシジミ漁を手伝うようになりますが、しばらくすると両親に暴言を吐くようになったため、両親は家を出て行ってしまいます。
川俣軍司は弟に手伝わせながらシジミ漁師を続けていましたが、1978年の5月に漁船を約70万円で売却して漁師を辞めています。
運送業、警備会社、寿司店、水産会社と職を転々としますが、その後も何度も傷害事件を起こして逮捕・服役を繰り返します。
幻聴が聞こえ始め、妄想を抱くようになる
この頃の川俣軍司は、幻聴が聞こえ、周りの人間が自分の悪口を言っているといった妄想を抱くようになっています。
実家の兄へと電話した際に「電波に引っ付かれた」「黒幕に麻酔を注射されて殺される」などの訳の分からない事を繰り返し訴えたそうです。
兄はそんな川俣軍司を不気味に思い、4万円ほどの現金を渡して今後は実家へと近づかないよう約束させています。
「統合失調症」の症状のようにも見えますが、この頃、川俣軍司は覚せい剤を常用していたようで、それによる幻覚症状もあったのかも知れません。
「深川通り魔殺人事件」を起こす前、川俣軍司は再び寿司職人として都内の店を転々としていた川俣軍司。
しかし、こうした妄想や覚せい剤の常用によって、不気味で異様な雰囲気を出していた事を理由にすぐに解雇されてしまい、落ち着いた生活を送る事はありませんでした。
寿司店の面接に落ちた直後に犯行に及ぶ
1981年6月、川俣軍司は勤めていた寿司屋を解雇され、次の仕事場を探すべく寿司チェーン店の面接を受けます。
川俣軍司が後日、その寿司店に電話連絡したところ不採用となり、その電話の直後に「深川通り魔殺人事件」を起こす事になります。
逮捕後の取り調べで川俣軍司は、
「寿司店に就職を申し込んだが断られ腹が立って無差別に人を襲った」
「自分には電波が引っ付いていて、その黒幕を暴くために人質をとって立てこもった」
などと、意味不明な犯行動機を語っています。
こうした意味不明な供述もあり、「深川通り魔殺人事件」の裁判で、川俣軍司は犯行時に「心神耗弱状態」にあったとして、死刑ではなく無期懲役判決が下されています。
深川通り魔殺人事件の犯人・川俣軍司と被害者の関係とは
「深川通り魔殺人事件」では、2人の女性と2人の幼い子供が殺害されました。
その中で最初の被害者、長野るみ子さんと犯人の川俣軍司の間には不気味すぎる因縁関係があった事が判明しています。
その因縁とは、川俣軍司の祖父が数十年前に長野るみ子さんの祖父に殺害されているというもので、川俣軍司はこの事実を全く知らなかったそうです。
そして、川俣軍司の祖父が殺害された場所というのが「森下」という土地で、これは「深川通り魔殺人事件」の発生した「深川」と小名木川を挟んで隣接する場所でした。
さらに、川俣軍司の祖父を殺害した長野るみ子さんの祖父は、川俣軍司と同じく覚せい剤中毒者であったとも言われています。
このあまりにも不思議な偶然と、川俣軍司の「電波に引っ付かれた」との不気味な供述から、この「深川通り魔殺人事件」は怨霊の仕業では？と話題になりました。
つまり、川俣軍司が祖父の怨霊に取り憑かれ、その恨みを晴らすために殺人犯の子孫である長野るみ子さんを襲って殺害した、と都市伝説として囁かれているのです。
深川通り魔殺人事件のその後や現在① 遺族のその後
「深川通り魔殺人事件」は、覚せい剤中毒者だった犯人・川俣軍司によって、なんの罪もない女性や子供らが理不尽に殺害された事件であり、被害者の遺族らは強い憤りを持ったはずです。
ですが、被害者や遺族の情報についてはほとんど何も明らかにされていません。
ただ、被害女性の1人の元夫が事件の数年後に再婚した、というニュースがワイドショーで取り上げられ、なぜかこの遺族男性を責め立てるような内容だったようです。
犯行時無職だった川俣軍司には、被害者への慰謝料や賠償金を支払える能力は無さそうですが、川俣軍司の兄や弟らが被害者遺族に対しての慰謝料や損害賠償を支払ったのでしょうか？
この点を含め、遺族のその後の顛末などは明らかになっていません。
深川通り魔殺人事件のその後や現在② ドラマ化され話題に
「深川通り魔殺人事件」は、事件発生から1年後の1983年、当時テレビ朝日系で放送されていた「月曜ワイド劇場」枠で、「深川通り魔殺人事件」のタイトルでドラマ化されています。
川俣軍司をモデルとした主役・川村軍平役を演じたのは、現在は名ベテラン俳優として知られている大地康雄さんでした。
大地康雄さんは、当時はまだ若手の売れない俳優でしたが、この主役抜擢を受けて、裁判資料などを徹底的に読み込んで役作りをし、その迫真の演技は大きな話題を呼びました。
放送後、テレビ局に「本人を出演させたのか？」という問い合わせが入るほど、大地康雄さんは川俣軍司をリアルに演じていたようです。
さらに、この作品で見せた抜群の演技をきっかけにして、大地康雄さんは一流俳優の仲間入りを果たしたとも言われています。
深川通り魔殺人事件のその後や現在③ 犯人・川俣軍司の判決
「深川通り魔殺人事件」の犯人・川俣軍司には、事件後の裁判で無期懲役判決が下されており、仮釈放されたという報道も、服役中に死亡したという報道もなく、現在も服役中のはずです。
逮捕後の取り調べや裁判では「電波に引っ付かれて犯行に及んだ」などと、妄想や幻聴が疑われていた川俣軍司でしたが、刑務所内でもこうした幻聴や妄想を訴えているのかは不明です。
まとめ
今回は、昭和の時代に起きた最も衝撃的な通り魔事件とも言われる「深川通り魔殺人事件」についてまとめてみました。
「深川通り魔殺人事件」は、覚せい剤常習者だった当時29歳の元寿司職人・川俣軍司が、白昼の商店街で偶然その場に居合わせた2人の女性と、2人の幼い子供を殺害した凶悪事件です。
川俣軍司はその後、裁判で無期懲役刑を言い渡され、2020年1月現在も刑務所に服役していると見られます。
この「深川通り魔殺人事件」を、単に覚せい剤中毒者による突発的な犯行と結論づけるのは危険です。
川俣軍司は事件のかなり以前から「統合失調症」と診断されてもおかしくないような幻覚妄想に悩まされていた疑いがあり、それが原因で凶行に及んだ可能性も十分に考えられます。
「深川通り魔殺人事件」のような事件は現在でも起こり得ます。幻覚や妄想により錯乱した人間が、突然前触れもなく襲いかかってくる危険から身を守る方法を考えておく必要があります。
また、覚せい剤根絶や、言動が怪しい人物への日頃からの社会的ケアや見守りについても社会全体で体制を備えていく事が大切ではないでしょうか。
