トミージョン手術は野球選手の救世主

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トミージョン手術とは、側副靱帯再建術とも呼ばれる手術で、肘の靱帯が断裂した人に対して行われる手術です。

1974年にアメリカのフランク・ジョーブ医師によって考案され、アメリカのメジャーリーグ投手のトミージョン選手が初めて手術を受けました。その選手名にちなんで、「トミージョン手術」と呼ばれています。

ピッチャーなど肘を酷使するスポーツをしていると、肘の靱帯が断裂することがあります。靱帯が断裂すると、当然ですが、今までと同じようなパフォーマンスができなくなります。

トミージョン手術が普及する前は、肘の靱帯を断裂した野球選手は引退という道しかありませんでした。でも、トミージョン手術を受けて成功すれば、またケガ前と同じようなパフォーマンスができるので、トミージョン手術は野球選手の救世主とも言える手術なんです。

トミージョン手術は今までに900人以上の野球選手が受けてきています。

トミージョン手術の内容

トミージョン手術とは、どんな手術なのか？もう少し詳しく手術内容を見ていきましょう。

トミージョン手術を簡単に言うと、体の別の場所から正常な靱帯を持ってきて、肘に移植するというものです。

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移植する靱帯は、前腕や脚、お尻、膝などから摘出することが多いです。摘出した靱帯を肘に移植して、金属等で固定します。

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トミージョン手術は手術を受けたらすぐに復帰できるというわけではありません。長い年月をかけてリハビリをして、ようやく復帰できる手術です。

トミージョン手術の費用

トミージョン手術は、日本では保険適用となる手術ですので、約30万円で手術を受けることができます。高額療養費制度を利用すれば、もっと安く済みますね。

トミージョン手術というと、野球選手専用（時々やり投げ選手など）の印象がありますので、高額手術と思うかもしれませんが、保険適用の治療方法ですので、そこまで高額な手術ではないんです。

ただ、アメリカで手術を受けるなら、話は別です。アメリカの医療費がとんでもなく高いことは皆さんご存知の通りです。個人的に医療保険に入っているならともかく、そうでない人は全額自費で支払うことになりますので、アメリカでトミージョン手術を受けると、費用が高すぎて払えなくなることがあります。

トミージョン手術で復帰までの期間

トミージョン手術は先ほども説明したように、手術を受けたらすぐに復帰できるわけではありません。

一般的には、ケガ前と同じレベルに回復するのは、18ヶ月（1年半）かかるとされています。

投球練習再開まで腕の筋力をアップするなど慎重にリハビリを進めます。そして、投球練習を再開しても、最初から全力投球できるわけではありません。肘の様子を見ながら、少しずつ強度を上げていきます。

そして、実践復帰できるようになるのは手術から1年～1年3ヶ月経ってからです。日本でいうと、いきなり1軍で投げられるようになるわけではありません。練習試合だったり、2軍で実戦登板をして、少しずつ慣らしていき、1年半後にようやくケガ前と同じように投げることができるというわけですね。

だから、プロ野球選手がトミージョン手術を受けると、1シーズンは確実に棒に振ります。シーズン終了後にすぐにトミージョン手術を受けても、次のシーズンはリハビリに励み、その次のシーズン開始からようやく試合に出ることができるという状態ですね。

トミージョン手術を受けた野球選手199名

トミージョン手術を受けた野球選手は今までに900名以上となっています。トミージョン手術を受けた野球選手を日本・海外に分けてご紹介します。

日本人の野球選手88名

日本人でトミージョン手術を受けた野球選手をご紹介します。手術を受けた時にNPBにいた選手・日本でプレーしていた選手も含まれています。

海外の野球選手111名

次に、メジャーリーグでトミージョン手術を受けた野球選手をご紹介します。メジャーリーグではトミージョン手術を受けた患者さんがあまりにも多いので、1974年に初めてトミージョン手術を受けたトミージョン選手以外は、2015年以降にトミージョンを受けた選手のみに限定しています。

トミージョン手術を受けると球速はアップするはデマ！

トミージョン手術を受けると、靱帯が新しくなるので、球速がアップすると言われています。トミージョン手術を受けた投手が、復帰すると、以前よりも球速がアップした例があったからですね。

そのため、肘をケガしていないのに、球速をアップさせるためにトミージョン手術を受けるべきだという考えが広まり、アメリカでは肘をケガしていない高校生や大学生がトミージョン手術を受けるということも相次ぎ、社会問題化していました。

でも、実はトミージョン手術を受けると球速がアップするというのはデマなんです。2013年の米セイバーメトリクス会議で発表されたデータでは、トミージョン手術後は球速が約1.4km/時低下しています。そのほかのデータでも、球速の低下が示されています。

トミージョン手術で球速がアップしたのはなぜ？

トミージョン手術後に球速がアップするというのは嘘です。これはデータが示しています。

でも、実際にトミージョン手術を受けた後に、球速がアップしたピッチャーがいるのは事実です。では、なぜ球速がアップしたピッチャーがいたのでしょうか？

それは、手術後のリハビリをしっかりしていたからだと言われています。トミージョン手術は、手術後1年以上のリハビリを行う必要があります。

その期間、投球練習はできないので、下半身や体幹、肩周辺のトレーニングを行います。そのトレーニングで球速が上がることはあります。

術後に球速が上がるケースがあるのは、長いリハビリ期間に、肘や肩のみでなく、投球に必要な全身のコンディションを改善させた結果であり、靭帯を再建したからではありません。

 

引用：大谷、ダルビッシュも受けた「トミー・ジョン手術」って何？ : Page 2 : yomiDr. / ヨミドクター（読売新聞）

つまり、トミージョン手術後に全身のコンディションが良くなったことで球速が上がることはあるけれど、トミージョン手術が球速をアップさせるわけではないということですね。

トミージョン手術の成功・失敗確率

トミージョン手術は、手術を受ければ、全員が実践復帰して、ケガ前と同じようなパフォーマンスができるというわけではありません。

手術をしても実践復帰できずに、引退するケースもあります。

これを見ると、トミージョン手術を受ければ、ほぼ実践復帰できるということになります。トミージョン手術を受けなければ、引退の可能性が高い中、この97％の確率にかけてみようと思う気持ちはわかりますよね。

失敗例：大塚晶文選手

メジャーリーガーの大塚晶文さんは、レンジャーズ時代の2007年に右ひじを痛めて、トミージョン手術を受けます。その後も合計3度のトミージョン手術を受けますが、肘の状態は上がってくる来ることはなく、メジャーのマウンドに再び上がることはありませんでした。

トミージョン手術の成功者：日本人6名

トミージョン手術の成功者の野球選手をご紹介します。まずは日本人からです。日本の野球選手でトミージョンを受けて、その後も活躍した6人を見ていきましょう。

1．村田兆治選手

「マサカリ投法」で有名な昭和の大投手である村田兆治さんは、1983年にトミージョン手術を受けています。1983年の時点ではまだトミージョン手術を受けた野球選手は非常に少なく、日本人では村田さんで2例目でした。

手術後、1985年シーズンは開幕から11連勝で、最終的には18勝5敗という素晴らしい成績を残し、その後もコンスタントに成績を残して、通算215勝で1990年に引退しました。

2．藤川球児選手

阪神タイガースの絶対的な抑えとして活躍し、2012年にはメジャーに移籍した藤川球児さんは、2013年にトミージョン手術を受けます。

その後、メジャーでは思うような成績が残せなかったのですが、四国アイランドリーグを経て半身に復帰し、2017年からはベテランとは思えないような活躍をし、2019年には4勝1敗16セーブ23ホールド、防御率1.77という驚異的な成績を残しました。

3．田澤純一選手

NPBを経由せずに直接メジャーリーグに挑戦した田澤純一さんは、2010年にトミージョン手術を受けました。

その後は、ボストン・レッドソックスで中継ぎとしてフル回転し、2013年にはワールドシーズン制覇にも貢献しています。

4．五十嵐亮太選手

五十嵐亮太選手は、2006年にトミージョン手術を受けました。復帰した2008年には最高球速156km/時を記録し、2009年には中継ぎとして活躍しました。

メジャーリーグ時代は目だった成績は残せませんでしたが、NPBに復帰したソフトバンクホークス時代は2014年には44ホールドを挙げるなど、中継ぎとしてフル回転しています。

5．和田毅選手

ソフトバンクホークスの左のエースである和田毅さんは、メジャーリーグ時代の2012年にトミージョン手術を受けました。ソフトバンクに復帰した後の2016年には15勝５敗の好成績をあげています。

6．ダルビッシュ有選手

メジャーリーガーのダルビッシュ有さんは、2015年にトミージョン手術を受けています。復帰後は正直、以前のような活躍はできていないのが現状です。しかし、2019年シーズンは勝敗の数字だけを見ると、あまり活躍できていませんが、後半からはかなり投球内容が良くなっていますし、来シーズンはさらなる活躍が期待されます。

トミージョン手術の成功者：海外9名

トミージョン手術の成功者、次は海外の野球選手です。

1．アダム・ウェインライト選手

カージナルスのアダム・ウェインライトは、2011年にトミージョン手術を受け、2012年に復帰します。2012年シーズンは14勝13敗、2013年は19勝9敗、2014年は20勝9敗という素晴らしい成績を修めました。

2．マット・ハービー選手

アスレチックスのマット・ハービーさんは、2013年のシーズン後にトミージョン手術を受けました。

2015年シーズンから復帰し、そのシーズンは13勝8敗という素晴らしい成績をあげて、カムバック賞を受賞しています。

3．ジョン・ラッキー選手

ジョン・ラッキー投手は2003年から9年連続で二桁勝利を挙げていたエースでしたが、2011年にトミージョン手術を受けました。

復帰後も引退する2017年まで二桁勝利をあげています。

まとめ

トミージョン手術の内容や費用、トミージョン手術を受けた野球選手、復帰する期間、失敗の確率や球速について、さらに手術の成功例をまとめましたが、いかがでしたか？

トミージョン手術は野球選手の救世主である手術ですが、ここ1～2年はトミージョン手術の件数が減ってきています。今後はトミージョン手術に変わる治療方法が出てくるかもしれませんね。