2008年に韓国で発生した凶悪な「ナヨン事件」ですが、 2020年12月に犯人が出所して韓国社会が荒れています。
今回はナヨン事件の犯行詳細、被害者の女の子と犯人チョ・ドゥスン、判決や映画化などその後、現在までの影響を紹介します。
この記事の目次
ナヨン事件とは
「ナヨン事件」とは、2008年12月に大韓民国・京畿道安山市檀園区で起きた強姦致傷事件です。
被害者である当時8歳のキム・ナヨン(仮名)ちゃんは、当時56歳だった犯人のチョ・ドゥスンに誘拐され、猟奇的な性暴行を受けて肛門と膣の約80%を失っています。
事件は被害者名が付けられましたが、あまりにも残酷で常軌を逸した犯人を周知し、問題にすべきとの意見から、「チョ・ドゥスン事件(趙斗淳事件、나영이 사건)」 とも呼ばれています。
犯人のチョ・ドゥスンには前科17犯がある上に同様の強姦致傷事件を起こした過去があり、韓国での最高刑、無期懲役が求刑されましたが、懲役12年という軽すぎる判決が決定しました。
チョ・ドゥスンは犯行当時、泥酔状態だったとして酒酔減軽による情状酌量が認められたためです。
この判決は韓国社会で大炎上し、法のあり方について紛糾する結果となりました。
ナヨン事件の被害者は8歳の女の子 キム・ナヨンちゃん
出典:https://ameblo.jp/
「ナヨン事件」の被害者であるキム・ナヨンちゃんは、当時8歳でした。
当時ナヨンちゃんの家庭は生活保護を受給している生活困窮世帯でしたが、母親はナヨンちゃんの将来のために毎月25000ウォン(約2500円)の保険料の積み立てをしていました。
ナヨン事件の犯人は前科17犯のチョ・ドゥスン
「ナヨン事件」を起こした犯人であるチョ・ドゥスンは、当時56歳で前科17犯の大犯罪者でした。
「ナヨン事件」を起こす前の1983年、チョ・ドゥスンは当時19歳だった女性に性的暴行を働いて懲役3年に服役。
1996年には全斗煥、盧泰愚両大統領の支持者だった当時60歳の男性に暴行を働いた末に、殺害しています。
しかし、この殺人事件でもチョ・ドゥスンは傷害致死を働いたにも関わらず、懲役2年という軽い判決を受けていました。
チョ・ドゥスンは前科17犯を犯している犯罪者であるものの、「ナヨン事件」を起こす56歳までに合計7年4ヶ月しか刑務所暮らしを経験したことがありませんでした。
ただ、警察にはチョ・ドゥスンに関する犯罪データが膨大にあったようです。
まるで犯罪をするために生まれてきたようなチョ・ドゥスン。次からは、「ナヨン事件」について詳しくまとめていきます。
ナヨン事件の詳細な犯行内容を時系列に紹介
チョ・ドゥスンはキム・ナヨンちゃんを教会トイレに連れ込んだ
チョ・ドゥスンは、2008年12月11日の午前8時30分頃、深酒をして酔っ払ったまま、韓国の首都圏である安山市檀園区にある教会前にいました。
そして教会前の路上で、学校に登校中だったキム・ナヨンちゃんを見つけ、チョ・ドゥスンは「教会に行かなければならない」と声をかけて、ナヨンちゃんを教会の中に連れ込みました。
チョ・ドゥスンはキム・ナヨンちゃんを強姦・暴行した
チョ・ドゥスンは教会のトイレにナヨンちゃんを強引に連れ込むと、性器を露出して舐めるように要求し、拒否されたため頭部を殴りました。
ナヨンちゃんが泣き始めたため、チョ・ドゥスンはナヨンちゃんの首を絞めて気絶させ、無理やり肛門性交を行って射精しました。
チョ・ドゥスンは精液から犯行が発覚するのを恐れて、便器から吸い出すための器具をナヨンちゃんの肛門に入れ、精液を吸い取りました。
吸引されたことでナヨンちゃんは脱腸し、内臓が壊死しています。
さらに、チョ・ドゥスンはナヨンちゃんの頭部を井戸水から引いた水道水で洗い、さらに水道水をナヨンちゃんの頭に出しっぱなしにしたまま、ナヨンちゃんを放置して現場から逃げました。
そのため、ナヨンちゃんは事件後、視力低下と鼻腔炎、内耳炎の後遺症を発症しています。
キム・ナヨンちゃんは重度の障害を負った
ナヨンちゃんは殴られたことで鼻骨を骨折し、全治8週間のけがを負いました。
また、トイレ器具により強引に精液を吸い出されたため、脱腸し、腸が壊死ししたことから、肛門と膣の80%を失う重度の身体障害を負ってしまいました。
現在も、両親のサポート無しでは生きられない体となってしまったのです。
チョ・ドゥスンが逮捕される
チョ・ドゥスンは証拠隠滅を図って逃げましたが、前科17犯という過去の犯罪により、警察に蓄積されていた指紋データと現場に残された指紋の照合が取れ、あっさりと逮捕されました。
日本では無期懲役の可能性が高いこの凶悪な事件ですが、チョ・ドゥスンは韓国の法の穴を突いて軽い刑で済んでしまうことになります。
ナヨン事件の犯人チョ・ドゥスンの判決とは
チョ・ドゥスンの裁判は法の穴があった
チョ・ドゥスンの自宅から押収された衣類からは、ナヨンちゃんの血痕が確認されます。また、ベッドの下からは犯罪に使うための凶器が複数押収されました。
韓国では死刑制度が撤廃されているため、検察側は韓国の最高刑である無期懲役を求刑しました。
しかし、チョ・ドゥスンは犯行当時は泥酔していて、全く身に覚えがないと主張し、無罪を訴えました。
そのため、韓国刑事司法における泥酔時の犯行を心神喪失と見なす「酒酔減軽」が適用されて、実際に言い渡された判決は懲役12年、電子足輪7年、身元公開5年の刑でした。
犯人の人権に配慮して導入された法律でしたが、実際にはこの法律を悪用して犯人サイドが心神喪失を装い続ければ減刑されてしまうという問題がありました。
ナヨン事件のその後:犯人チョ・ドゥスンへの怒りから映画化された
「ナヨン事件」は、発生当時はそこまで韓国社会で知られていませんでした。
ですが、マスコミが大々的に報じたことから認知度が高まり、多くの韓国人が非難の声を上げ始めました。
チョ・ドゥスンのような凶悪犯を無期懲役にできない問題が指摘され、チョ・ドゥスンを許すことはできないという空気になって、社会問題として韓国国内で論議されるようになりました。
この社会現象を元に、2013年には『ソウォン/願い』という映画が制作されています。
映画『ソウォン/願い』の評判は?
韓国社会を揺るがした「ナヨン事件」を映像化した映画『ソウォン/願い』について、ネット上のレビューをいくつか紹介します。
先般(2020/12)、この映画のもとになった事件の犯人が12年の刑期を終えて出所すると報道され、韓国社会にふたたび脅威をもたらしていた。
個人的な感慨だが、ペドフィリアのような者をなぜ生かしておくんだろう──と、よく思う。
世の中には生きていなくていいサイコパスがいて、そんなやつに権利なんていらないし、しねばいいのである。
普通の常識・良心がある人の心情として、このどうしようもない最悪の凶悪犯の人権は無視してもいい、とする声が多いのも事実です。
ですが、たとえ犯罪者であっても人権を一部でも撤廃すると、法社会のあり方が壊れてしまうという危惧もあります。
実際の事件を基に制作されたと聞いたので鑑賞。
とにかく、娘を想うお父さんの気持ちがひしひしと伝わってきて涙が止まりませんでした。
娘を守りたい、娘に何かできることはないか、でもどうすればいいのか分からない。
最後は感動の涙に変わりました。
娘を持つ親なら、この映画は直視しづらいものがあったでしょう。
しかし、そこに目を向けることで日常のどこにでも異常者が潜んでいる可能性があるという警鐘になり、社会でこうした凶悪事件を抑制する運動にも繋がるでしょう。
実際に韓国で起こった、残虐な性犯罪の事件をベースに作られた本作品。
鑑賞前に、基となった事件の詳細を調べて行ったおかげで、始まる前から、心臓がドキドキして、落ち着いた気持ちではいられなかった。
「トガニ」で、韓国映画が鋭く現代社会に置ける問題を描き、その映画の迫力に驚いたのは早数年前。
本作品でも、同じように幼い児童が性犯罪の闇に巻き込まれる様子が、描かれていた。
トガニを鑑賞した後は、怒りがとめどなく溢れてやりきれなかったのに対し、本作品はまた違う気持ちを私に残してくれた。
本作品に込められた、監督の想いが非常に丁寧に描かれていた。
とてもシリアスで、とても笑える話では無いのに。鑑賞中は、涙と鼻水が止まらなく、心がただただ締め付けられたのに、映画の最後には希望と、強さを与えてもらえたような気持ちになった。
韓国の俳優達が魅せる、繊細な心の表現が、本当に素晴らしかった。
この世の中の悪と戦っていく為に、こういう映画をもっともっと、たくさんの人に見て欲しい。この映画を見て考えさせらることがたくさんあるはずだから。
「ナヨン事件」は韓国社会特有の問題を浮き彫りにした事件ですが、この映画『ソウォン/願い』は丁寧に作られており、日本人でも考えさせられる感動の作品に仕上がっているようです。
ナヨン事件の現在① 犯人チョ・ドゥスンの出所に韓国社会が震えた
2020年12月12日、チョ・ドゥスンは服役していた九老区南部刑務所を満期で出所します。
この日のソウル市内は氷点下の寒さとなっていましたが、逆に韓国社会は怒りの沸点を超えて、煮えたぎるようなチョ・ドゥスンへの憎悪が渦巻いていました。
12日未明から、チョ・ドゥスンが収監されていた刑務所の入り口付近には、100人余りのプラカードを掲げた市民やYouTuberが集まりました。
そして、「チョ・ドゥスンを地獄へ」「チョ・ドゥスン死刑」などの言葉が掲げられていたのです。
チョ・ドゥスンを移送する車は攻撃された
午前6時45分頃、チョ・ドゥスンを乗せた車が九老区南部刑務所から出てくると、怒りの雄叫びを上げながら市民らは車を追いかけました。
そして、車を足で蹴ったり、卵を投げつけるなど人身事故が起きかねない状況になります。
なんとか市民らのバリケードを突破した移送車は、チョ・ドゥスンの自宅のある京畿道(キョンギド)安山(アンサン)市に向かいました。
そして7時50分頃に、チョ・ドゥスンを乗せた移送車は、京畿道安山市檀園区(タンウォング)にある保護観察所に到着し、電子足輪(位置追跡装置)登録などの行政手続きが行われます。
なお、保護観察所の前には100人余りの警官が配備されていましたが、抗議に詰めかけた50人を超える市民やYouTuberが押し寄せてきたため、現場は大混乱となりました。
チョ・ドゥスンと同じ安山市民と見られる老人は、「チョ・ドゥスンと一緒に暮らすことはできない」というプラカードを掲げながら、街から追放してほしいと訴え続けました。
黒い帽子やマスクで顔を隠し、カーキ色のロングジャンパーにジーンズ姿のチョ・ドゥスンが移送車から降りてくると、取材陣が「犯行を反省していますか」など質問を投げかけました。
しかし、チョ・ドゥスンは沈黙したまま建物の中に姿を消しています。
チョ・ドゥスンは反省の色を示した
それから約1時間後、手続きを終えたチョ・ドゥスンが外に出てくると、記者から取材を要請されたため足を止めました。
反省しているかどうかや、被害者家族に対しての謝罪の気持ちはあるかどうかなどが質問されましたが、チョ・ドゥスンは黙ったまま頭を下げると、再び車に乗り込んでいます。
沈黙を続けるチョ・ドゥスンに対して記者団が非難の声を上げると、刑務所を出てから同行していた安山保護観察所の担当官が代わりに記者の前に立ち、チョ・ドゥスンの様子を伝えました。
チョ・ドゥスンは、出所してみて社会の空気がこれほど加熱しているとは思わず、国民の怒りがよくわかったと語り、これから反省しながら生きていくとの意思を示したそうです。
チョ・ドゥスンの自宅をYouTuberが取り囲んだ
その後、移送車がチョ・ドゥスンの自宅へと出発しようとすると、怒りで興奮した市民たちが車の上に飛び乗ったり蹴ったりなど攻撃を始めたため、警察と市民が衝突する混乱に発展します。
警察の働きもあり、現場を抜けた移送車は、午前8時40分頃にチョ・ドゥスンの自宅に到着しました。
しかし、ここにもあらかじめ集まっていた市民やYouTuberらが抗議の声を上げて待っており、チョ・ドゥスンは警察が市民らを制止する中で、素早く自宅に身を隠しています。
後の安山市による発表では、チョ・ドゥスンが出所日前までの3日間で警察に寄せられた市民の苦情は500件余りに登っており、そのうち8件が起訴されるような事件に発展していました。
ナヨン事件の現在② 韓国の法律が厳罰化された
出典:https://ameblo.jp/
「ナヨン事件」がこれほど韓国で問題視された理由には、その犯行の残忍性はもちろんですが、チョ・ドゥスンの軽い処罰が国民の怒りに火をつけたためでした。
控訴しなかった検察にも国民の怒りの声が殺到し、これを受けて検察内部で懲戒委員会が開かれて、性犯罪など凶悪犯罪に対する量刑強化の機運が高まりました。
そして2010年、児童性犯罪に対する処罰が強化され、有期刑の刑量を50年に上方修正される法改正が実現しました。
被害者の人生をめちゃめちゃにしたチョ・ドゥスンが今後、反省の言葉通りに生きること願うとともに、性犯罪が二度と起こらないよう、法の抑止力を高めていく必要があるでしょう。
まとめ
2008年12月に韓国で発生した、同国史上最悪の部類に入る事件である「ナヨン事件」についてまとめてきました。
チョ・ドゥスンがいくら反省していると口にしても、同じ地域で生活をしなければならない女性や娘を持つ親にとってはこれほどの苦痛はないでしょう。
チョ・ドゥスンが出所した12月12日から16日にかけて、同じ地域に暮らす住民から不安を訴える声が1000件以上届いていたそうです。
警察はチョ・ドゥスンが再犯を起こす可能性はないと安心させようとしているようですが、これ以上被害者が出ないよう、厳しく見守る必要がありそうです。