チェルノブイリ原発事故のことを知っていますか?日本で起きた福島原発事故の話題になると、必ずと言って良いほど比較されるチェルノブイリ原発事故ですが、地球上で起こった最悪の原子力事故と言われています。
今回はチェルノブイリ原発事故の概要や死者数、被害状況、原因、福島原発事故との比較、現在についてまとめました。
この記事の目次
チェルノブイリ原発事故とは
チェルノブイリ原発事故とは、旧ソビエトで起こった史上最悪の原子力事故のことです。
・1986年4月26日に発生
・旧ソ連(現在のウクライナ)
・史上最悪の原子力事故
出典:inaco.co.jp
チェルノブイリ原発事故は、1986年4月26日の午前1時23分に、旧ソ連のウクライナ・ソビエト社会主義共和国(現在のウクライナ)のベラルーシに近い場所にあるチェルノブイリ原子力発電所で起こった原子力事故のことです。
1986年4月26日に起こった概要
当時、チェルノブイリ原子力発電所は4つの原子炉が稼働中でしたが、原発事故が起こったのは4号炉です。
4号炉は前日から保守点検に向けて原子炉を止める作業が行われていました。そして、その過程で普段行えない実験を行うことが計画されていたんです。
その実験の途中で、史上最悪の原子力事故は起こりました。実験中に4号炉は制御不能の状態に陥り、メルトダウンを起こします。そして、大爆発。
出典:asahi.com
画像からわかるように、原子炉と建屋は完全に崩壊し、大量の放射性物質が大気中に放出されることになりました。
この時の爆発はすさまじいもので、事故が発生した1時24分ごろには2回の爆発が起こり、夜空に向けて花火のような吹き上げがあったという目撃証言があります。
レベル7の深刻な事故
チェルノブイリ原発事故は、国際原子力機関(IAEA)が作った「国際原子力事象評価尺度(INES)」によると、レベル7の事故に分類されます。
出典:eic.or.jp
1956年にイギリスで初めて原子力発電が運用されて以来、このレベル7に分類された事故はチェルノブイリ原発事故と福島原発事故の2つしかありません。いかに大きくで深刻な事故だったかがわかると思います。
ちなみに、このINESの分類はレベル0~7という8段階で分類されていますが、福島原発とチェルノブイリ原発事故はレベル7という同じ分類にありながらも、規模は全く違うとされています。
詳細はこの後で比較していきますが、チェルノブイリ原発事故に比べると、福島原発事故は規模が1桁小さい。福島原発事故の被害はチェルノブイリ原発事故の被害の1~2割程度という意見もあるのです。
日本であれだけ大きなニュースになり、レベル7という深刻な事故であり、取り返しがつかないほどの甚大な被害をもたらした福島原発事故は、チェルノブイリ原発事故の1~2割程度。
これを考えると、チェルノブイリ原発事故はとんでもない原発事故だったということがわかりますね。
チェルノブイリ原発事故発生後の対応
1986年4月26日1時23分にチェルノブイリ原発事故が発生します。その後は、どういう対応をしていたのかを見ていきましょう。
まず、爆発が起こったことをモスクワに報告する電話をしますが、この時にチェルノブイリ原子力発電所の所長は、「原子炉は無事です!」と報告してしまいます。(本当は破壊されている)
そして、事故から12時間以上経った4月26日の午後にモスクワから専門家が到着しますが、ここでようやく「原子炉が壊れてるじゃん!」という事実が発覚するんです。
いろいろな会議を重ねた結果、翌日の27日になって、ようやく周辺住民に避難指示が出されました。
さらに、避難が開始された27日になって、ようやく消火活動が本格的に始まります。爆発直後は周辺地域の消防士が消火活動を行いましたが、周辺の火災を消すことができても、原子炉はどうにもできません。
そこで、応急処置として4月27日から次のことが行われます。
2.放射線遮断のために同じく鉛を2000トン投下
3.水蒸気爆発を防ぐために、消防士などの手で圧力抑制プールから水を排出
4.原子炉に液体窒素を注入
命を懸けた石棺づくり
出典:almakos.com
高濃度の放射線が出ている中、きちんとした防護服も用意されておらず、それでも石棺づくりのための作業は進められました。あまりの放射線量の高さのために、ロボットは動かなくなったために、手作業で石棺づくりを進めざるを得なくなったんです。
ロボットが動かなくなるほどの放射線が出ているのに、画像のような簡単な防護服を着て作業を行わなければなりませんでした。
放射線量が高いために、一人当たりの作業時間はたった90秒。そして、その間に黒鉛で50キロか核燃料で15キロを石棺に投げ込まなければいけないという過酷な労働環境でした。
出典:jiji.com
その結果、作業開始から約5ヶ月後の1986年11月には、石棺が完成し、チェルノブイリ原発事故による放射線物質は放出されなくなりました。
この石棺建築作業を行った人たちはリクビダートルと呼ばれ、60万人にも上ったとのことです。
チェルノブイリ原発事故の死者数
史上最悪の原子力事故であるチェルノブイリ原発事故では、きちんとした死者数は明らかにされていません。
IAEA(国際原子力機関)の公式見解によると、チェルノブイリ原発事故の死者数は、次のようになっています。
放射線急性性障害 | 28人 | |
急性障害から回復後に死亡 | 19人 | |
小児甲状腺がん | 9人 | |
その他のがん死亡者
| 1986-87 年のリクビダートル | 2200人 |
事故直後 30km 圏避難民 | 140人 | |
高汚染地域居住者 | 1600人 |
これで合計4000名ですね。4000名の死者が出ているという見解になっています。ただ、この発表数では、まだ少ないという意見もありますので、本当の死者数は不明なままです。
ソ連はひたすら隠そうとした
チェルノブイリ原発事故について1986年にソ連政府が発表した報告によると、事故直後に避難した人々には急性の放射線障害は皆無だったとされています。
しかし、最初に事故処理に当たった消防士などににも急性の放射線障害が出て、激しく嘔吐して動けなくなる者が続出し、事故の処理にあたった軍人、トンネルの掘削を行った炭鉱労働者に多数の死者が確認されています。
でも、ソ連の報告にはその人たちは入っていない可能性があります。また、チェルノブイリ原発事故とがんの関連性についても、きちんとした調査がされているとは言えず、チェルノブイリ原発事故による死者数は闇の中というのが現実なんです。
チェルノブイリ原発事故の被害状況
被災状況
チェルノブイリ原発事故による被害者は、次のように分類できます。
事故現場にいた職員や消防士 | 1000~2000人 |
石棺を作ったり除染作業をした人 | 60~80万人 |
事故現場から半径30km以内で強制避難した人 | 13万5000人 |
高汚染地域から移住した人 | 数十万人 |
汚染地域に住んでいる人 | 600万人以上 |
これを見ると、チェルノブイリ原発事故が、いかに深刻な事故だったかがわかります。現在でもチェルノブイリ原子力発電所から半径30km以内は基本的に立ち入り禁止で、年間被ばく5ミリシーベルトの範囲は強制移住の範囲になっています。
がん患者の増加
チェルノブイリ原発事故以降、周辺地域ではがん患者が増加していることがわかっています。
出典:env.go.jp
甲状腺がんはウクライナや周辺のベラルーシ、ロシアで増加しているデータがありますし、そのほか乳がんや肺がん、食道がん、子宮がんなども増加しています。また、アメリカの研究ではチェルノブイリ原発事故と白血病も関連性があり、慢性白血病患者が増えているとされています。
「赤い森」の広がり
チェルノブイリの被害は、周辺地域にも及んでいます。半径30kmは立ち入り禁止となっていますので、廃墟のような状態になっているんです。
さらに、周辺の半径10kmは放射能の汚染が激しく、木々は放射能物質を吸収したことから枯れてしまいました。この枯れた森は赤茶色に変色したことから、「赤い森」と呼ばれています。
出典:asahi.com
出典:asahi.com
赤い森の部分はもう廃墟になっていて、人が住める状態ではありません。
赤い森は人が立ち入らないため、野生動物の宝庫になっていて、色々な野生動物が見られると言われています。
出典:wired.jp
野生動物の楽園とも言われていますが、調査によっては奇形の動物が増えているとも言われているんです。
世界への広がり
チェルノブイリ原発事故は、実は最初は伏せられていました。もちろん、ソ連の中央政府はチェルノブイリ原発事故が起こっていることを知っていましたが、国外に向けて公表はしていなかったんです。
でも、4月27日に北欧のスウェーデンで放射能が検出されたため、4月28日になってようやくソ連政府はチェルノブイリ原発事故が起こったことを公表しました。4月末までにはヨーロッパ各国で、さらに5月上旬までには北半球のほとんどの範囲で放射能が観測されています。
また、ヨーロッパ各地で放射能が検出され、食品汚染も深刻化しました。
チェルノブイリ原発事故の原因
チェルノブイリ原発事故の原因は、次の2つと言われています。
・構造的な欠陥
出典:bbc.com
1986年4月25日からチェルノブイリ原子力発電所の4号炉で実験が行われました。この過程で、ミスが重なったようです。
2.実験のために安全装置を解除していた
3.時間に追われて原子炉の出力レベルを下げ過ぎた
4.なぜか制御棒を一斉に挿入した
5.制御棒を一斉に挿入したことで、ポジティブスクラムが発生し制御不能となった
このような過程で、チェルノブイリ原発事故は起こりました。見事にミスが重なったようです。安全装置を解除するのは仕方がないけれど、出力レベルを下げ過ぎて、さらに制御棒を一斉に挿入した。ミスがミスを生んだということですね。
さらに、チェルノブイリ原子力発電所の原子炉の格納容器は、コンクリートで作られていましたが、鉄で補強されていなかったんです。強度が弱かったために、爆発した時に重大な被害をもたらしたということですね。
チェルノブイリ原発事故と福島原発事故を徹底比較
チェルノブイリ原発事故はIAEAの国際原子力事象評価尺度(INES)では、レベル7に分類されています。
同じレベル7に分類されている原子力事故には、福島原発事故があります。このチェルノブイリ原発事故と福島原発事故を比較してみましょう。
出典:nippon.com
出典:gigazine.net
チェルノブイリ原発事故 | 福島原発事故 | |
メルトダウンでの死者数 | 47人 | 0人 |
合計死者数 | 4000人 | 1369人 |
放射線量 | ヨウ素:~1760 セシウム137:~85 | ヨウ素:160 セシウム134:18 セシウム137:15 |
避難者数 | 13万5000人+数十万人 | 14万6520人 |
汚染地域への対応 | 除染せずに放置。住民の帰還計画 なし | 除染して2028年3月までに住民の帰還 を目指す |
避難地域 | 2826平方キロメートル | 337平方キロメートル |
放射性物質の放出量 | 520万テラベクレル | 90万テラベクレル |
汚染地域 | 14万6100平方キロメートル | 8900平方キロメートル |
IENAレベル | レベル7 | レベル7 |
原発事故が起こった時代が違いますし、事故からの年数も違います。また、社会主義国家と民主主義国家という違いもありますので、一概には比較するのは難しいですが、これらの比較をすると、チェルノブイリ原発事故の方が重大な被害を出しているということは間違いなさそうです。
チェルノブイリ原発事故の現在
チェルノブイリ原発事故の現在はどうなっているのかを見ていきましょう。
廃炉までの道のりは遠い
チェルノブイリ原発事故は、発生から30年以上も経っています。それでも、まだ完全には収束していません。
石棺が作られましたが、石棺の耐用年数は30年とされています。そこで、石棺を覆うシェルターの建設が始まりました。2010年にシェルターの建設が始まり、2016年には完成しています。
出典:afpbb.com
これで当面の間は放射性物質を封じ込めることはできます。ただ、ここから石棺を解体し、原子炉も解体して廃炉に持っていかなければいけません。
現在の技術力ではチェルノブイリ原発事故を廃炉にすることは難しいとのことで、これからもまだまだ長い年月が必要と考えらえています。
まさかの観光スポットに!
半径30km以内は、基本的に立ち入り禁止とされてきたチェルノブイリですが、現在はまさかの観光地になっているんです。2010年にチェルノブイリ周辺の立ち入りが許可され、ウクライナの首都であるキエフからは日帰りツアーも施行されています。
出典:karapaia.com
出典:afpbb.com
2018年には約7万人がチェルノブイリ原発事故の現場に観光に訪れたそうです。それを受けて、2019年にはウクライナ大統領がチェルノブイリを観光地化するための大統領令を出しています。
2019年にはアメリカのHBOで制作された「チェルノブイリ」というドラマが話題になり、日本でも話題になっているので、これからさらに観光化が進んでいくのかもしれません。
まとめ
チェルノブイリ原発事故の概要や死者数、被害状況、原因、福島原発事故との比較、現在などをまとめました。チェルノブイリ原発事故は、史上最悪の原子力事故であり、現在もまだ収束していないという現状があります。
それにしても、観光地化されているというのには驚きましたね。
チェルノブイリ原発事故や福島原発事故について正しい情報を持ち、正しく理解して、今後のエネルギーはどうすべきなのか、原子力発電を存続すべきか否かをしっかり考えていきたいものです。