日常生活内で突然意識を失うことがあったら、とても怖いですよね。そして、危険です。てんかんはきちんと薬を飲んでいれば、その症状をほぼ抑えられますが、薬をきちんと服用せずに交通事故を起こして逮捕されたりするため、世間一般的に「危険」と思われて、差別されたりするのが現実です。
今回はてんかんの定義や種類、症状、原因と遺伝の関係、交通事故で逮捕された事例をまとめました。
この記事の目次
てんかんとは
てんかんとは、脳の神経細胞(ニューロン)が自発的に突然激しい電気的な興奮が起こり、それによって「てんかん発作」が繰り返し起こる病気のことです。
てんかんについて、WHO(世界保健機関)は次のように定義しています。
『種種の病因によってもたらされる慢性の脳疾患であり、大脳ニューロンの過剰な放電から由来する反復性の発作(てんかん発作、seizure)を主徴とし、それに変異に富んだ臨床ならびに検査所見の表出が伴う』
引用:てんかん – Wikipedia
ニューロンに電気的な興奮が起こると、脳のどの部分に電気的な興奮が起こるのかによって症状は違いますが、突然意識を失ったり、全身性の痙攣が起こったりすることもあります。
てんかんは、1000人に5~8人の割合で発症する病気で、日本には60~100万人のてんかん患者がいることになります。だから、決して珍しい病気ではなく、非常に身近な病気と言えるでしょう。
また、性別・年齢に関係ない病気であることも特徴です。乳幼児から高齢者まで男女問わず、誰でも発症する可能性がある病気なんです。
てんかんの種類
てんかんは、明らかな原因が脳にあるどうか、また過剰興奮する部分が脳の局所だけか全般だけかによって、種類がわかれます。
・症候性=脳に病変があり、それが原因でてんかん発作が起こる
・全般=脳全体、もしくは脳の大部分が興奮して、てんかん発作が起こる
特発性 | 症候性 | |
部分 | 特発性部分てんかん
| 症候性部分てんかん ・側頭葉てんかん
|
全般 | 特発性全般てんかん
| 症候性全般てんかん ・早期ミオクロニー脳症
|
てんかんにはこのように大まかに4つの種類に分けることができるんですね。ちなみに、この4つの種類のてんかんは、その種類によって、症状・発作を抑えられるかどうか、その確率が変わってきます。
特発性 | 症候性 | |
部分 | 特発性部分てんかん
| 症候性部分てんかん
|
全般 | 特発性全般てんかん | 症候性全般てんかん ・20% |
特発性部分てんかんはしっかりと治療をすれば、100%症状を抑えることができるのに対し、症候性全般てんかんの場合、症状を抑えられる確率は20%と低いことがわかります。
特発性なら治療しやすく、症候性で脳うに原因疾患がある場合は、治療が難しいということですね。
てんかんの症状
てんかんの症状は、部分発作と全般発作の2種類に分けることができます。
部分発作
部分発作は脳の一部が過剰興奮を起こして起こるてんかんの症状です。この部分発作は、主に3つに分けることができます。
・複雑部分発作=意識障害を伴う
・二次性全般化=部分発作から全般発作に移行する
・手足がねじれる
・ガクガクとけいれんする
・体全体が片方に引かれる
・回転する
・輝く点や光が見える
・ピカピカする
・音が響く
・耳が聞こえにくくなる
・カンカンと音が聞こえる
・頭痛
・吐き気
■複雑部分発作
複雑部分発作は、意識が遠のいていく発作で、発作の最初から意識がない場合と、途中から意識がなくなる場合があります。
・舌なめずりや舌打ちをする
・もぐもぐと口を動かす
・ごくんと飲み込む
・顔をボーっとさせる
・辺りをフラフラと歩き回る
・手をたたく
・顔や身体をなでる
・衣服をまさぐる
・手をもむ
本人はこの発作中の記憶がないことが多いですが、発作の途中で「意識がなくなりバタン!と倒れる」ようなことはありません。
全般発作
全般発作は脳の全体(大部分)で電気の異常興奮が起こり、全身的な症状が起こります。次の4つの症状があります。
・脱力発作
・欠神発作
・ミオクロニー発作
■強直間代性発作
・間代性発作=手足をガクガクと一定のリズムで曲げたり伸ばしたりするけいれん
強直性発作は数十秒から1分程度起こることが多いです。そのまま自然の眠りに移行することもあります。この強直間代性発作が自動車運転中に起こると、大事故につながることが多いです。
■脱力発作
全身の筋肉が脱力してしまう発作です。突然全身の筋肉が脱力するため、崩れるように倒れてしまうこともあります。数秒程度の発作になります。
■欠神発作
欠神発作は急に動作が止まり、数十秒にわたって意識がなくなる発作です。けいれんを起こしたり、倒れたりすることはありません。
- ・眼球が上転する
- ・まぶたがピクピクする
- ・動作がストップする
・呼びかけに反応がない
小学校入学前の女児に多い症状です。
■ミオクロニー発作
全身や体の一部がピクっとする発作です。一瞬だけの症状のこともありますが、繰り返し症状が起こることもあります。
てんかんの原因と遺伝
てんかんの原因は特発性と症候性の2つに分けられます。
特発性の原因
特発性のてんかんは、検査をしても原因が見つからないものを言います。簡単に言えば、原因不明のてんかんです。この特発性てんかんは、生まれつき「てんかんになりやすい」傾向を持っていると言われています。
基本的にてんかんは遺伝するものではありませんが、遺伝が関係している特発性てんかんがあると推測されています。
症候性の原因
症候性てんかんは脳の病気が原因で起こるてんかんです。症候性てんかんを引き起こす疾患には、次のものがあります。
・脳梗塞
・アルツハイマー
・脳炎
・髄膜炎
・低酸素脳症
・頭部外傷(脳挫傷等)
これらで脳にダメージが起こると、てんかんが起こる原因になります。
てんかん発作を誘発する原因となるもの
てんかん発作を誘発するものがあります。これは個人によって、またその日の体調等によって変わりますし、必ずてんかん発作が起こるというものではありません。
・アルコール
・睡眠不足
・抗うつ薬などの薬剤
・光
てんかんの患者さんはこれらの原因をできるだけ取り除いた生活を送ることが大切です。
てんかんの交通事故で逮捕された事例:有罪になった17件(1-5)
1.鹿沼市クレーン車暴走事故
出典:mainichi.jp
鹿沼市クレーン車暴走事故
発生日時:2011年4月18日
発生場所:栃木県鹿沼市
被害者:児童6人死亡
鹿沼市クレーン車暴走事故は、2011年4月18日に起こりました。てんかん患者の運転手がクレーン車を運転中にてんかん発作を起こし、登校中の小学生15人の列に突っ込み、児童6人が死亡しました。
この運転手は服薬を怠っており、さらにこの事故の前にも小学生をはねる事故を起こして執行猶予中で、過去10年に12回もの事故を起こしていることがわかっています。この犯人には懲役7年の実刑判決が下っています。
2.京都祇園軽ワゴン車暴走事故
出典:jiji.com
京都祇園軽ワゴン車暴走事故
発生日時:2012年4月12日
発生場所:京都府京都市東山区の祇園
被害者:8名死亡(運転手含む)12名が重軽傷
2012年4月12日に京都の祇園で軽ワゴン車が暴走し、運転手を含む8名が死亡し、12名が死亡する事故が起こりました。
この軽ワゴン車はまずタクシーに後ろからぶつかり、タクシーの運転手の制止を振り切って、さらに暴走。車側は赤信号だった交差点に突っ込んで、14人が死傷しています。そこでも暴走は止まらず、さらに通行人2人を負傷させ、電柱に突っ込んでようやく停車しました。
これは最初にタクシーに衝突したことによって精神的に動揺し、そこでてんかん発作が起こって、暴走したものを結論付けられています。
この事件では運転手も死亡していますので、容疑者死亡で不起訴となっています。ただ、もし運転手が生きていたら、本人はてんかんを自覚しながらも、それを申告せずに運転免許を更新していますので、有罪となったと言われています。
3.池袋駅東口乗用車暴走事故
出典:sankei.com
池袋駅東口乗用車暴走事故
発生日時:2015年8月16日
発生場所:東京都豊島区東池袋
被害者:1名死亡4名重傷
2015年8月16日にてんかん患者が運転するベンツが池袋駅東口の駅前で暴走し、歩行者をはねて1名死亡・4名が骨盤骨折などの重傷を負った事故がありました。
運転手は医師で、てんかんの持病を持っていて普段は毎日服薬していましたが、「当日夕方分を飲んでいなかった」と自供していたことから、逮捕・起訴されました。懲役5年の実刑判決が下っています。
4.山形市ひき逃げ事故
山形市ひき逃げ事故
発生日時:2001年10月10日
発生場所:山形県山形市
被害者:1名死亡
2001年10月10日に車を運転したてんかん患者が、運転中に発作を起こし、原付バイクに後ろから衝突。原付バイクの運転手を25m引きずった後に逃走しました。被害者のバイク運転手は死亡しています。
加害者の運転手は運転前にてんかん発作の兆候を感じていたことから、運転を自粛できたとして、禁固1年6ヶ月執行猶予3年の判決となりました。
5.長野市多重衝突事故
長野市多重衝突事故
発生日時:2004年3月7日
発生場所:長野県長野市
被害者:1人が死亡、6人が重軽傷
2004年3月7日に長野市内を走行中に、てんかん患者がてんかん発作を起こし、車5台に次々に衝突し、多重衝突事故を起こしました。この事故で1名が死亡し、6名が重軽傷を負っています。
運転手に対して、懲役4年の実刑判決が下っています。
てんかんの交通事故で逮捕された事例:有罪になった17件(6-11)
6.横浜市トラック暴走事故
横浜市トラック暴走事故
発生日時:2008年3月9日
発生場所:横浜市鶴見区
被害者:1人死亡1人重傷
2008年3月9日に横浜市の鶴見区でトラック運転手が運転中にてんかん発作を起こしトラックが暴走。そのままトラックは歩道に乗り上げ2人をはね、1人が死亡し1人は重傷となりました。
この運転手は禁固2年8ヶ月の実刑判決となっています。
7.四日市市歯科医師暴走事故
四日市市歯科医師暴走事故
発生日時:2010年12月30日
発生場所:三重県四日市市
被害者:2人死亡
三重県四日市市の近鉄名古屋線の踏切で自転車で電車通過待ちをしていた3人に、運転中にてんかん発作を起こした歯科医師の車が衝突。通過待ちをしていた3人は線路に押し出され、2人が電車にはねられて死亡しました。
この歯科医師の運転手は禁固2年8ヶ月の実刑判決となっています。
8.松江市軽自動車暴走事故
松江市軽自動車暴走事故
発生日時:2011年4月21日
発生場所:島根県松江市
被害者:2人が死傷
2011年4月21日に島根県松江市で車を運転中に運転手がてんかん発作を起こし、歩道を歩いていた2名を死傷させる事故がありました。
この運転手はてんかんがあることを隠して免許を更新していて、事故の数日前から薬の服用もしていなかったことで、禁固2年の有罪判決となっています。
9.福山市児童4人重軽傷事故
福山市児童4人重軽傷事故
発生日時:2011年5月10日
発生場所:広島県福山市
被害者:児童4人が重軽傷
2011年5月10日に広島県福山市で、運転中に運転手がてんかん発作を起こし、小学生の列に車が突っ込み、児童4人がケガをした事故がありました。
運転手は転換を持っているにもかかわらず、それを申告せずに運転免許を更新していて、逮捕されています。運転手には禁固1年の実刑判決が下されました。
10.姶良市トラック暴走事故
姶良市トラック暴走事故
発生日時:2011年10月19日
発生場所:鹿児島県姶良市
被害者:1名死亡4名重軽傷
鹿児島県姶良市で、トラックを運転中の男性がてんかん発作を起こして、トラックが暴走し、1名が死亡、4名が重軽傷w
11.宇都宮市5人重軽傷事故
宇都宮市5人重軽傷事故
発生日時:2011年12月27日
発生場所:栃木県宇都宮市
被害者:5人負傷
2011年12月27日、栃木県宇都宮市で運転手がてんかん発作を起こして、対向車と衝突し、5人が負傷する事故がありました。このてんかん発作を起こした運転手は、医師に運転を控えるよう指導されていたにも関わらず、運転して事故を起こしています。
禁固2年4ヶ月執行猶予5年の判決となっています。
てんかんの交通事故で逮捕された事例:有罪になった17件(12-17)
12.札幌市無免許てんかん暴走事故
札幌市無免許てんかん暴走事故
発生日時:2014年6月7日
発生場所:北海道札幌市
被害者:1人重傷
2014年6月7日に北海道札幌市で、ワゴン車を運転する運転手がてんかん発作を起こして、対向車線の乗用車と衝突。乗用車の運転手が重傷を負いました。
てんかん発作を起こしたワゴン車の運転手は、転換を持っていただけでなく、無免許だったことが判明し、逮捕されて懲役1年10ヶ月の実刑判決となっています。
13.東大阪市暴走事故
東大阪市暴走事故
発生日時:2015年3月5日
発生場所:大阪府東大阪市
被害者:2名死亡、1名重体
2015年3月5日、大阪府東大阪市でワンボックスカーを運転中の運転手がてんかん発作を起こし、車と衝突して、歩行者2名をはねる事故がありました。歩行者2名は死亡、衝突された車の運転手は意識不明の重体となっています。
自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)容疑で起訴されています。
14.宮崎市5人死傷事故
宮崎市5人死傷事故
発生日時:2015年3月12日
発生場所:宮崎県宮崎市
被害者:1人死亡4人負傷
2015年3月12日、宮崎市内でてんかん発作を起こした運転手が運転する車が衝突を繰り返しながら暴走し、1人が死亡、4人が負傷する事故がありました。加害者の運転手は、自動車運転処罰法違反で起訴されています。
15.共和町てんかん患者暴走事故
出典:
共和町てんかん患者暴走事故
発生日時:2015年8月19日
発生場所:北海道共和町
被害者:9人負傷
2015年8月19日、北海道の共和町でてんかん患者が運転中にてんかん発作を起こして、9人が負傷した事故がありました。この運転手は以前から車の運転を止めるように医師から始動されていたのに、車を運転していました。
また、父親は息子がてんかんを持っていることを知っているのに車を貸したとして逮捕されています。
16.宮崎市暴走横転事故
出典:asahi.com
宮崎市暴走横転事故
発生日時:2015年10月28日
発生場所:宮崎駅前
被害者:2人死亡5人負傷
てんかん発作を起こした運転手が運転する軽自動車が暴走し、700m暴走して、6人をはねて横転する事故がありました。このうち2人は死亡し、運転手を含めた5人がケガをしています。
この運転手は事故の2日前まで認知症で入院していましたが、この原因はてんかんと判断されていて、実刑6年の判決となっています。
17.笛吹市暴走事故
笛吹市暴走事故
発生日時:2018年5月10日
発生場所:山梨県笛吹市
被害者:1人死亡、2人負傷
山梨県笛吹市で2018年5月10日に、運転手がてんかん発作を起こして交通事故を起こし、1人が死亡、運転手を含む2人が負傷しています。
この運転手はてんかんの持病を申告せずに運転していたことから、懲役4年の実刑判決となっています。
てんかんの交通事故で逮捕された事例:無罪になった3件
てんかん患者が交通事故を起こしても、無罪となったケースもあります。
1.三木市児童殺傷事故
三木市児童殺傷事故
発生日時:1999年10月26日
発生場所:兵庫県三木市
被害者:児童1名死亡、2名負傷
兵庫県三木市で1999年10月26日に、運転手がてんかん発作を起こし、児童3人に突っ込む事故がありました。児童1人は死亡、2名が負傷しました。裁判では、てんかん発作で心神喪失状態だったという運転手の主張が認められて、無罪判決となっています。
2.栗東市てんかん暴走事故
栗東市てんかん暴走事故
発生日時:2002年9月27日
発生場所:滋賀県栗東市
被害者:1名死亡
2002年9月27日に滋賀県栗東市で運転中に運転手がてんかん発作を起こし、対向車線の軽トラックと正面衝突する事故がありました。軽トラックの運転手は死亡しましたが、裁判では運転中止義務違反の過失がないとして無罪になっています。
3.岩倉市多重衝突事故
岩倉市多重衝突事故
発生日時:2011年7月10日
発生場所:愛知県岩倉市
被害者:2名死亡、6人負傷
2011年7月10日に愛知県岩倉市で運転手が運転中にてんかん発作を起こして、赤信号待ちの車列に突っ込み、親子2名が死亡、運転手を含む6人が負傷する事故がありました。
運転手はこの時点でてんかん発作があるとは認識できていなかったとのことで、「症状を認識しておらず、事故の予見可能性があったとはいえない」として不起訴となっています。
まとめ
てんかんのの種類や症状、原因と遺伝の関係、てんかん患者が起こした事故で逮捕された事例をまとめましたが、いかがでしたか?
てんかん患者全員が車を運転してはいけないというわけではありません。条件を満たしていれば、安全に運転できます。でも、条件を満たしていないてんかん患者が運転するのは本当に危険ですので、もしあなたの周りにてんかん患者がいて、運転OKの条件を満たしていないのであれば、注意するようにしてください。