殺人容疑で親族4人が逮捕された大崎事件は、主犯の女性が3度も再審請求をしており冤罪も話題です。
今回は大崎事件の内容、容疑者の知的障害や自白の信用性など冤罪の可能性、再審請求と弁護士の主張、真犯人と真実をまとめました。
この記事の目次
大崎事件の内容詳細
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大崎(おおさき)事件とは、1979年10月に鹿児島県曽於郡大崎町で起きた殺人事件です。
1979年10月15日、大崎町のある牛小屋で当時42歳の農業を営む男性の遺体が発見されました。
警察はこの事件を「近隣の者、または近親者によって実行された殺人、死体遺棄事件」と想定。
事件直後から被害者宅の隣に住む当時52歳の長兄、当時50歳の次兄を任意同行し、取り調べを行いました。
長時間の追及により、兄2人は「2人で被害者の首をタオルで絞めて殺害した。死体は堆肥の中に埋めた」と自供、殺人と死体遺棄容疑での逮捕へと至ったのです。
そして兄らの自白により、長兄の妻で義姉の原口アヤ子、そして甥も殺人や死体遺棄容疑で逮捕されることとなりました。
犯行動機とされているのは「保険金目的」で、兄2人と甥が保険金を受け取るため、酒乱の被害者の殺害を企てたとして起訴されました。
しかし、身に覚えのない義姉・原口アヤ子は取り調べに対し繰り返し「やっていない」と否認したものの、警察は聞く耳を持たず、「罪を認めなければ無期懲役だ」と厳しく追及されました。
義姉・原口アヤ子が逮捕されたのは、夫である長兄や次兄の自白によるものでした。
被害者はタオルで首を絞められて殺されたとされていますが、絞殺の凶器であるタオルは特定されず、証拠には挙がっていません。
物証がないまま、原口アヤ子は男たちの自白のみを証拠に共犯として逮捕・起訴されたのが大崎事件が長きに渡る闘いとなった始まりです。
その後、義姉の原口アヤ子には懲役刑が下されるものの、無実の主張をし続け、再審請求を現在まで続けてきました。
兄たちが自白を強要されたのではないかと見る向きがあり、さらに容疑者には知的障害者もいるなど、冤罪の可能性、そして真犯人や真実に注目が集まっています。
大崎事件の裁判内容の詳細
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農業を営む被害者男性が殺害された大崎事件では、被害者の長兄・次兄・甥・長兄の妻で被害者の義姉・原口アヤ子が容疑者とされ、逮捕となりました。
前述の通り、犯人逮捕のきっかけとなったのは被害者の兄らによる自白で、当初は「殺人と死体遺棄ともに兄2人による犯行」というものでした。
しかし後に、「殺人は義姉の指示による犯行、死体遺棄は被害者の甥にあたる次兄の息子も関与した」と変化し、4人が容疑者として逮捕されることになりました。
1980年3月31日の裁判では、鹿児島地裁は容疑者4人に対し、「被害者をタオルで絞め殺し、牛小屋の堆肥置き場に死体を遺棄した」と断定。
被害者の義姉にあたる長兄の妻・原口アヤ子を主犯として殺人・死体遺棄罪で懲役10年。
殺人・死体遺棄罪で長兄を懲役8年、同じく次兄を懲役7年、そして死体遺棄容疑で甥に懲役1年の判決を下しました。
逮捕時より否認していた義姉・原口アヤ子は即日控訴し、無実を訴えて最高裁まで争いましたが、棄却されて1981年に懲役10年の刑が確定したのです。
大崎事件の真実① 容疑者男性3人には知的障害があった…
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無実を訴えて即日控訴した義姉・原口アヤ子とは別に、共犯とされた男性3人は控訴せずに刑が確定しました。
取り調べの時点から自供して罪を認めていたという被害者の兄2人と甥ですが、実は知的障害がありました。
後日、取り調べでの警察の厳しい追及により「自白させられた」ことを弁護士に告白しました。
長兄は交通事故の後遺症で知的能力が低かったことが分かっており、次兄と甥には知的障害がありましたが、取り調べや裁判では彼らの知的障害に対する配慮がされていませんでした。
さらに、取り調べで自白したとされる知的障害の彼らですが、この自白を裏付ける証拠などは見つかっておらず、物証などはなく自白のみが証拠として提出されています。
にも関わらず、裁判で有罪判決を下されても控訴せずに懲役刑を受け入れました。
義姉の原口アヤ子は、取り調べ段階から一貫して犯行を否認し続けていましたが、物証が無く共犯者たちの自白のみを証拠に有罪判決となり、10年間服役することとなったのです。
警察に厳しく取り調べされた知的障害がある者達の自白のみが証拠で、一貫して無実を主張している義姉…。
これらのことから、大崎事件は冤罪が疑われており、自白の信用性が議題に挙がっています。
大崎事件の真実② 自白に信用性はある?冤罪の可能性も
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まず、事件の矛盾点として疑われるのは被害者の死因です。
判決では、タオルで首を絞められたことによる急性窒息死と言われています。
ですが弁護士の主張によると、なんと被害者の遺体にはタオルで首を絞められた痕跡がないとされるのです。
弁護側は転落事故の可能性も捨てきれないとしましたが、検察側は被害者の死因を外傷性ショック死と推定し、首に索条痕とみられる圧迫の形跡があったことから懲役刑を求刑しました。
しかし再審での新たな鑑定では、被害者の首に絞殺の痕跡が認められないと鑑定されたのです。
このことから、冤罪の可能性も捨てきれないと見る向きが増えました。
また、容疑者に知的障害があり、警察の厳しい取り調べがあったことから自白の信用性にも疑問が残ります。
ここで弁護士と検察の主張に相反性が出てきます。弁護士は3人の自白に一貫性がないとしましたが、検察側は3人の証言は具体的かつ詳細で、現場の状況と符合していると主張しました。
判決では、被害者の義姉・原口アヤ子が殺害計画を長兄と次兄に持ちかけて、殺害後に甥に死体遺棄を手伝わせたとされています。
しかし再審ではこの自白に対し、共犯者は知的障害があり、捜査官の誘導に迎合した可能性は否定できないとされたのです。
以上のことにより冤罪の可能性があるとされ、無実を主張し続けてきた義姉の原口アヤ子を支持する声も挙がるようになりました。
仮に犯人とされた4人が無実だとすれば、大崎事件の真犯人は誰なのでしょうか。大崎事件の真犯人については次で検証することにします。
大崎事件の真実③ 真犯人とは?
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殺人事件として、容疑者には懲役1〜10年の刑が確定した大崎事件ですが、ここに来て被害者の死因が殺人ではなく、真実は転落による事故死ではないかという意見が出てきました。
そのため、殺人罪は冤罪で、逮捕された親族の4人は真犯人ではないと見る向きがあり、冤罪説を信じる者も多く出てきています。
大崎事件で4人が逮捕されたのは、警察が知的障害のある容疑者たちに厳しい取り調べを繰り返し、自白を強要したのではないかと言われています。
殺人と死体遺棄を認めたのはいずれも知的障害や知的能力の低い者のみで、健常者の義姉・原口アヤ子は取り調べから裁判、そして服役後まで一度も自白せず罪を否認してきました。
義姉・原口アヤ子は、主犯として懲役刑が下り佐賀県の刑務所に服役してからも、刑務所でまじめに生活して刑務官に仮釈放を勧められたものの、それを断り続けたといいます。
仮釈放が認められるには、罪を認めて反省を示すことが条件とされています。
義姉は一貫して犯行を否認していたため、「やっていないことを認めるわけにはいかない」と、仮釈放の勧めを断りました。
知的障害の長兄が自白の強要を告白している
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無実を訴え続け、判決の10年の刑を務め上げて出所した原口アヤ子は、自分の夫に会いに行きます。
出所後に会った夫は、「警察に“妻がやったと言え”と言われて、そう言った」と真実を話し始めます。
謝る夫に原口アヤ子は再審請求を持ち掛けましたが、夫は「俺もやっていないが、裁判はもういい。忘れたい」と闘うことを拒否しました。
犯人とされた彼らの自白が嘘であり、転落死が真実であれば、真犯人などおらず、単なる事故死だったという事実が浮上します。
原口アヤ子は、夫らと話した時に彼らの「調書は嘘」「自分もやっていない」と話した録音テープを証拠とし、再審を請求することになりました。
大崎事件の再審請求3度の道のり・弁護士の主張まとめ
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被害者の義姉・原口アヤ子は10年の懲役を務め上げて1990年に出所した後、共犯者すべてが無実であるとして、1995年に再審請求を行いました。
そして鹿児島地裁は2002年、再審開始の決定を出します。
タオルでの絞殺という鑑定と殺害状況に矛盾がある可能性が高いと認め、また知的障害のある容疑者に捜査官が自白を強制、または誘導した可能性も否定できないとしました。
しかし、検察側がこれを不服として即時抗告。新たな証拠はほとんど認められず、自白にも整合性があるとして、福岡高裁宮崎支部は再審決定を取り消しました。
原口アヤ子は自身と親族の無実を証明するため、多くの弁護士からなる弁護団を設け、更なる再審に向けて準備を進めます。
弁護団の弁護士は大崎事件について、以下のように主張し、新証拠を提出しています。
遺体はタオルによる絞殺とは矛盾する状況だったという法医学鑑定書を提出し、犯行現場にあったカーペットの状況も自白内容と矛盾することを再現実験報告書にして提出したのです。
さらに共犯者の自白が体験的ではないとして、供述心理鑑定書も新証拠として提出しています。
鹿児島地裁は2017年6月28日、自白に信用性がないとして再審開始を認めました。
前回は棄却した福岡高裁宮崎支部も再審を認めましたが、弁護側が新たな証拠として提出した鑑定結果が誤っていたとして、2019年に最高裁判所は再審開始決定を取り消しています。
大崎事件の現在
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大崎事件の主犯とされた義姉・原口アヤ子は事件から40年、一貫して無実を訴えており、共犯者達も出所後に全員が無実を訴えました。
事件当時50代だった長兄は病死、次兄は1987年に自殺し、まだ若かった甥も事件を苦に自殺しており、義姉以外の全員が他界しています。
現在もなお再審請求が続けられている大崎事件ですが、この再審によって無実が認められても、原口アヤ子が生きている内に無念を晴らす悲願は遂げられない可能性が高いと言われています。
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出所後、無実の罪を晴らすためだけに生きてきた原口アヤ子は、すでに90代を迎えています。
現在も「無実の罪を晴らしてから死にたい」と繰り返して語り、「やっていないことはやっていない、と認めてほしい」という思いを抱き続けています。
90代となり、人生をやり直す時間も与えられていない彼女に、近年は老いによる衰弱も進んできました。
物忘れが多くなり、足腰も弱って1人で行動するのは難しくなっています。台所に立つことも少なくなり、福祉サービスの弁当を頼りに生活しています。
弁護士に讃えられるほど強い女だった彼女も、今では弱気になり「体が言うことをきかない」「みんなに迷惑をかけるから、死んだほうがマシかもしれない」と口にするようになりました。
しかしそれでも、やはりこのままでは死ねないと決意を改め、無実の罪を晴らして殺人犯のレッテルを取りたいと願っているのです。
そんな原口アヤ子の弁護団には、かつて裁判官を務めていた男性や、足利事件を弁護した弁護士も加わり、総勢35名の弁護団となりました。
弁護団の1人は、人生をかけて闘っている原口アヤ子に司法がどう向き合うのか問いかけ続けています。
「裁判官も自分の人生をかけて判断してほしい」と語る弁護団と共に、原口アヤ子は現在も無実を晴らすために闘い続けています。
40年前の殺人事件である大崎事件、今もなお再審請求が続けられています。
被害者の義姉であり、主犯とされた原口アヤ子は、本当の真犯人や真実が明らかになるまで闘い続けるでしょう。
2019年に再審が取り消され、2020年になった現在は今後どのような動きがあるのか注目が集まっています。
今後も引き続き大崎事件の動向に注目し、真実が明らかになる時を待ちましょう。
まとめ
大崎事件の内容詳細、知的障害を持つ容疑者たちの自白の信用性と冤罪の可能性、真犯人や真実、再審請求など現在をまとめました。
事件から40年経った現在も未だ決着を見ない大崎事件ですが、せめて主犯とされた原口アヤ子が生きているうちに真実が明らかになることを祈るばかりです。