エボラ出血熱は「コンゴ民主共和国」をはじめとしたアフリカ諸国で度々流行感染が発生し多数の死者が出ている極めて危険な感染症です。
今回はエボラ出血熱の症状や原因、感染経路、これまでの集団感染での死者数や致死率、現在の状況について、また日本にエボラウイルスが輸入されたニュースについてもまとめます。
この記事の目次
エボラ出血熱とは
「エボラ出血熱」とは、「エボラウイルス」を病原体とする急性ウイルス性感染症です。
マールブルグ病、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱等と同じ「ウイルス性出血熱」に分類される疾患で、ヒトにも感染し、発見・治療が遅れると非常に高い致死率となり、救命できたとしても重篤な後遺症を残す場合が多い非常に危険な疾患です。
「エボラ出血熱」は、1976年にアフリカの「ザイール(現在のコンゴ民主共和国)」と「スーダン」で初めて発生しました。「エボラ」という名称は、発生地の近くに流れていた「エボラ川」に由来します。
なお、「エボラ出血熱」は、感染者が必ず出血症状を伴うわけではない事から、近年、国際的には「エボラウイルス病(Ebola virus disease)」と呼称され「EVD」の略称で表記されています。
信用性の高い「NIID 国立感染症研究所」のウェブサイトによる「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」についての説明は以下の通りです。
エボラ出血熱はエボラウイルスによる感染症であり、ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱等とともに、ウイルス性出血熱(viral hemorrhagic fever:VHF)に分類される一疾患である。エボラ出血熱患者が必ずしも出血症状を呈するわけではないことから、国際的にエボラ出血熱に代わってエボラウイルス病(Ebola virus disease: EVD)と呼称されている。
引用:エボラ出血熱とは
初めて「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」が発生した1976年から2019年3月までの期間に、30回を超えるアウトブレイク(感染爆発)が報告されており、「コンゴ共和国」「シエラレオネ」「ウガンダ」「ギニア」「リベリア」など、主にアフリカ諸国で大量感染が発生し、多数の犠牲者が出ています。
2014年3月に「ギニア」で発生した過去最大規模の集団感染では、隣国の「リベリア」「シエラレオネ」にまで感染が拡大するパンデミックとなり、3カ国合計で3万人近い感染者(疑い含む)を出し、死亡者は11313名に上ったとの報告が世界保健機関 (WHO) から出されています。
エボラ出血熱の症状
「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」の症状については、「NIID 国立感染症研究所」のウェブサイトでは、以下のように説明されています。
EVDの一般的な症状は、突然の発熱、強い脱力感、筋肉痛、頭痛、喉の痛みなどに始まり、その後、嘔吐、下痢、発疹が出現する。肝機能および腎機能の異常も伴う。さらに症状が増悪すると出血傾向や意識障害が出現する。
「NIID 国立感染症研究所」のウェブサイトでは、「結膜充血」などの急性的な眼の異常と、突発的な発熱などの他の症状が併発した場合、「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」の早期発見につながる場合があるとも指摘されています。
結膜充血などの急性眼症状は発熱などの他の徴候と併せて特定された場合、EVDの早期診断に寄与する可能性がある。
その他、「厚生労働省検疫所」のウェブサイト「FORTH」では、「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」の症状について以下の説明がされています。
全身倦怠感、発熱(38度以上の高熱)、頭痛、筋肉痛、のどの痛みなどの症状で始まります。続いて、嘔吐や下痢などの消化器症状、次いで内臓機能の低下がみられます。
下痢は水様で、しばしば多量になることがあります。重症患者では1日に10リットルを超えることもあり、コレラに類似した症状となります。
エボラ出血熱に感染しても出血症状が認められない場合も多い
「エボラ出血熱」という名称から、代表的な症状として出血が見られるとの誤解が生まれそうですが、実際には出血症状が見られない場合の方が多いという事です。
2000年に発生した「ウガンダ」での集団感染では出血症状が見られたのは全体の10パーセントほどだったという事です。
2000 年のウガンダでの流行では上記症状に加えて、衰弱のほか下痢等の消化器症状が目立ち、出血症状が認められたのは約10%であった。
これについて「厚生労働省検疫所」のウェブサイト「FORTH」でも以下の説明がなされています。
出血症状は、以前考えられていたよりもまれなため、最近はエボラ出血熱ではなく、エボラウイルス病(EVD)と言われます。
また、「NIID 国立感染症研究所」のウェブサイトでは、「エボラウイルス(エボラウイルス病)」の潜伏期間については2日から最長で3週間ほどと説明されています。感染経路によって、潜伏期間に違いも見られるようです。
潜伏期間は2日から最長3週間といわれており、汚染注射器を通した感染では短く、接触感染では長くなる傾向がある。
同じく、「厚生労働省検疫所」のウェブサイト「FORTH」でも、潜伏期間については2から21日と示されています。通常の場合は(7〜10日程度)とされます。
2~21日(通常7~10日程度)の潜伏期間
エボラ出血熱の原因や感染経路
「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」の原因や感染経路についても、信用度の高い医療機関などからの情報を元にしてまとめていきます。
「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」のウイルスを自然界の宿主の特定には至っていませんがオオコウモリ、サル、類人猿などの野生動物がエボラウイルスの自然宿主という説が有力になっています。
自然界ではコウモリなどの野生動物がエボラウイルスを保有していると考えられます
こうしたエボラウイルスに感染した野生動物の血液などの体液に、人間が触れ、それが皮膚の細かな傷、目や鼻などの粘膜に接触する事で感染すると見られています。
また、エボラウイルスに感染したヒトの血液や体液に触れ、それが人体の粘膜に触れた場合にも感染するとされています。
エボラウイルスに感染した動物(コウモリ、霊長類など)や感染した人の体液等(血液、分泌物、吐物・排泄物など)に、皮膚の細かな傷や、眼や口の粘膜等が接触するとウイルスが体内に侵入し、感染します。また、症状が出ている患者の体液等やそれに汚染された物品(シーツ、衣類、医療器具、患者が使用した生活用品など)に傷口や粘膜が触れても感染することがあります。通常は空気感染も起こりません。
上記にもあるように、症状が出ている患者の使用したシーツや衣類、医療器具、使用した生活用品などからも感染する場合があり、病院や治療施設内で治療中に発生した感染も多数報告されています。
「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」の治療で使用された医療器具にエボラウイルスが付着した場合、数時間から数日間、感染性を持ち続ける事もわかっており、医療器具を介した接触での感染事例も多くあるという事です。
エボラ出血熱は空気感染はしないが飛沫感染については現在のところ不明
また、「厚生労働省検疫所」のウェブサイト「FORTH」の説明で「通常は空気感染も起こりません」とされているように、「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」は空気感染(空気中を漂った病原体を吸い込む事による感染)はしないという事です。
ただし、感染者のくしゃみや咳などで飛んだ飛沫が、他の人の粘膜に触れる事で発生する「飛沫感染」については、感染するのかしないのかが、専門家の間でも意見が分かれており、いまだに結論は出されていないという事です。以下はダートマス大学の青柳有紀先生による説明です。
ヒトに症状を起こすエボラウイルスは「空気感染」することはありません。一方で、エボラウイルスが「飛沫感染」をするのかどうかははっきり分かっていません。患者さんの体液や血液が、傷ついた皮膚や粘膜に接触することで感染する(「接触感染」)ことは間違いないのですが、「飛沫感染」も起こすかどうかという点は、専門家でも意見が分かれているところです。
エボラ出血熱の致死率や死者数
「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」の致死率や死者数について、これまでに報告されているデータを元にしてまとめていきます。
「厚生労働省検疫所」のウェブサイト「FORTH」では、「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」の致死率について「25パーセントから90パーセントの範囲で変化」「概ね50パーセント程度」と説明されています。
エボラウイルス病の致死率はエボラウイルスの種類と患者に提供される医療のレベルによって、25~90%の範囲で変化しますが、概ね50%程度です。
次の見出しからは、これまでに発生した「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」のアウトブレイクの代表的なものの致死率や死者数を細かく紹介していきます。
2014年から2016年にかけて西アフリカ諸国で発生したアウトブレイク
これまで報告された中で、エボラ出血熱(エボラウイルス病)の大流行がもたらした最も大きな被害として知られているのが、2014年から2016年にかけて西アフリカで発生したアウトブレイクです。
最初に「ギニア」でエボラ出血熱の流行が報告され、その後、感染者が国境をこえて隣国「リベリア」や「シエラレオネ」に移動した事で、それらの周辺国にも感染が拡大、パンデミックの様相を呈しました。
この時の感染者発生は、約2年もの間続き、総感染者数は疑いも含めると「28616例」、死者数は「11313名」に上り、その致命率(致死率)はなんと39.7%パーセントにも達しました。
「NIID 国立感染症研究所」のウェブサイトでは、この時の国別の感染例と致死率が以下のように示されています。
疑い例を含み合計28,616例・致命率40%(ギニア3,814例・致命率67%、リベリア10,666例・致命率45%、シエラレオネ14,122例・致命率28%)
2018年にコンゴ民主共和国で発生したアウトブレイク
2018年5月3日に、「コンゴ民主共和国」で発生したアウトブレイクでは、同年7月24日に終結宣言が出るまでの期間に疑いも含めて感染例「54例」が報告され、その内「33名」が死亡しています。致死率は「61パーセント」と極めて高いものでした。
また、「コンゴ民主共和国」では、2018年7月31日に再び、エボラ出血熱の患者が確認され、同年8月1日には再びアウトブレイク宣言が出されました。
2019年3月12日の時点で、疑いも含めて「927例」の感染者が報告され、その内の死者数は「534名」で致死率は「63%」でした。
2000年から2001年にかけてウガンダで発生したアウトブレイク
2000年から2001年にかけて、東アフリカに位置する「ウガンダ」で発生したエボラ出血熱(エボラウイルス病)のアウトブレイクでは、合計で「425名」の感染者が確認され、その内「225名」が死亡し、致死率は「53パーセント」にも上りました。
エボラ出血熱の治療法や予防策は?
エボラ出血熱の治療法
2020年2月時点においては「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」に対する有効な治療薬などは確立されていません。現在は複数のエボラ出血熱の治療薬の臨床試験が続けられ、効果が上がりつつあるという事です。
また、エボラ出血熱から回復した人には抗体ができるため、「WHO」はエボラ出血熱の治療法として「回復した元患者の血液や血清を投与する事が有効な治療法」との認定を出しています。
治療薬のほか、エボラ出血熱のワクチンの開発も進められており、2018年にはアウトブレイクが発生しているコンゴ民主共和国の内陸部で大規模なワクチンの接種が行われ、死亡者数の増加を抑制するなどの一定の効果が出ているという評価が出されています。
エボラ出血熱の予防策
エボラ出血熱(エボラウイルス病)の予防策については「WHO」から以下の対策が示されています。
感染の大元とされる野生動物(オオコウモリ、類人猿、サルなど)との接触を避ける事、食べる際(現地ではよく食べられる)は生食を避け、徹底した加熱処理をする事。
エボラ出血熱(エボラウイルス病)の症状のある人、特に感染者の体液と直接、または濃厚に接触する事でヒトからヒトへの感染を防ぐため、感染者の世話をする際に手袋や適切な防御具を装着する事。
患者の世話をした後、見舞いに訪れた後は必ず(石鹸と水を使って)手洗いをする事。
また、流行の抑制策としては以下の対応策が示されています。
エボラ出血熱(エボラウイルス病)で死亡した人の遺体を迅速かつ安全に埋葬する事。
エボラ出血熱(エボラウイルス病)の感染者と接触した可能性のある人を特定し、21日の間、健康状態を監視する事。
エボラ出血熱(エボラウイルス病)の感染者と健康者を遠ざけておく事。
良好な衛生環境と清潔な環境を維持する事。
エボラ出血熱の現在① 世界ではまだ終息していない
「コンゴ民主共和国」では、2018年8月にアウトブレイク宣言が出されて以来、いまだに終息宣言は出されておらず、2020年時点で合計「3392例」のエボラ出血熱(エボラウイルス病)の症例が報告されています。
この内、「2235例」が死亡し、致死率は「66パーセント」にも達し、現在もアウトブレイクと呼ばれる状態が続いています。
これに加えて、現地では資源をめぐる利権や民族間の対立などが原因となった紛争が長年にわたって続いており、エボラ出血熱の治療にあたる国際的な支援団体に対する武装勢力による襲撃事件も頻発し、医療スタッフにも死亡者や負傷者が続出しています。そのために、エボラウイルスの感染拡大を防ぐための封じ込め策(拡大抑止策)が妨げられており、現在のエボラ出血熱の感染拡大に歯止めが掛からない状況に繋がっているのです。
このように極めて悲惨な状況にあるコンゴ民主共和国やその周辺の地域ですが、国際的な関心が高まっておらず、現地で活動する、国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」などから現地で必要な国際的な支援や対応が遅れているといった警告が出されています。
エボラ出血熱の現在② ウイルスを研究のために日本に輸入
ここまで見てきたように、極めて危険な疾患である「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」ですが、2019年9月27日、日本国内に「エボラウイルス」を含む、危険な感染症のウイルス5種類(エボラウイルスの他は、南米出血熱、ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱)を輸入した事が大きく報じられました。
国立感染症研究所は27日、エボラ出血熱など危険性が高い5種類の感染症の病原体を感染研村山庁舎(東京都武蔵村山市)の施設に輸入したと発表した。
エボラウイルスをはじめとする5種のウイルスは、東京都武蔵村山市にある国立感染症研究所に搬入、保管されました。この施設は、バイオセーフティレベル(安全管理レベル)の最高基準である「BSL-4」のレベルを備えた研究施設で、エボラウイルスは「BSL-4」の基準を満たした施設でなければ保管できないという事です。
このエボラウイルスなど5種のウイルス輸入の目的は、東京オリンピックやパラリンピック開催時の集団感染(アウトブレイク)を見据えての他、様々な脅威に備えた研究のためだという事です。
東京五輪・パラリンピックまでに検査体制を強化することが目的で、病原体の実物を使えば、より速く正確な診断ができ、患者の回復状況も調べられるようになるという。
地元では極めて危険なウイルスが持ち込まれた事を懸念する声も上がっています。施設側からは厳重な安全対策を取ると共に、外部からの侵入者によってウイルスが持ち出される事なども防ぐため、施設の出入りを記録して厳重に管理する他、監視カメラの設置、警備員の常駐など、警備態勢も強化していくという事などが発表されています。
まとめ
今回は、「コンゴ民主共和国」をはじめとするアフリカ諸国で度々アウトブレイクが発生している「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」についてまとめてみました。
「エボラ出血病(エボラウイルス病)」は極めて感染力が強く、感染すると致死率が「25パーセントから90パーセント」にも上り、治療されたとしても重い後遺症を残す場合が多いという、極めて危険な疾患です。
2020年現在においてもコンゴ民主共和国ではアウトブレイクの状態が続いており、多くの現地の人々が犠牲になっています。この深刻な事態に加えて、現地では武力紛争が長年続いており、治療にあたる医療スタッフが武装勢力の襲撃を受け、死亡者や負傷者を出すなどしており、感染拡大を防ぐための対策が妨害されるなど、極めて深刻な事態に陥っています。
しかし、こうした極めて深刻な状態が続いているにも関わらず、国際的な関心はあまり集まっておらず、十分な支援が得られていない状況だという事です。
「エボラ出血熱(エボラウイルス病)」は極めて感染力が強く、いつアフリカ大陸を出て、世界中に拡散してもおかしくはない状態だと言われています。
これを機に「エボラ出血熱(エボラウイルス)」について関心を持ち、現地の人々のために十分な支援が行われる環境が整えられるよう促していく事も大切なのではないでしょうか?