世界には文明を受け入れることなく、独自の文化・生活様式を続ける民族・部族がおり、その1つがヤノマミ族です。
今回はヤノマミ族の基礎知識、結婚・出産事情、子供が精霊と言われる理由、食事事情やコロナ禍の現在をまとめました。
この記事の目次
ヤノマミ族とは
ヤノマミ族とは、アマゾンの熱帯雨林に住んでいる南米の先住民族です。
ブラジルの中でも、ベネズエラやコロンビアとの国境近く、アマゾン川の支流であるネグロ川左岸やオリノコ川の上流地域に住んでいて、その地域はヤノマミ族保護区になっています。
人口の詳細なデータはありませんが、現在はブラジルとベネズエラ合わせて2万5000人~3万8000人ほどが住んでいると言われています。
文明を受け入れない未接触部族としては最大規模であり、100以上の部族に分かれて生活しています。
ヤノマミ族は住んでいる地域によって言語も異なり、次の4つの呼び方が確認されています。
・ヤノマム(南東部)
・サネマ(北西部)
・ヤナム(北東部)
ヤノマミ族の中にもいろいろな部族がいるということですね。
ヤノマミ族は基本的に服を着ることはなく、裸で生活します。ただ、生理が来た女性は陰部を隠さなければいけません。また、男性も思春期以降は陰部を隠すことが多いです。
ヤノマミ族は男尊女卑の部族 【その背景も紹介】
ヤノマミ族は完全に男尊女卑の部族です。
ヤノマミ族は部族間で常に戦争状態が続いています。部族間での争いが絶えることがないので、自動的に力の強い男性が優位な状況になります。
好戦的な民族・性格のようで、喧嘩が始まるとそれを止めようとするのではなく、どちらかが戦意喪失するまで放っておくことが多いことも、男尊女卑の価値観に拍車をかけているようです。
また、食事事情はこの後詳しく説明しますが、ヤノマミ族は狩猟で食料を確保しています。
狩猟生活であるゆえに、女性よりも男性が活躍でき、男性がいないと生活が成り立たない、つまり食料を確保できないということから、男尊女卑の考え方が根強く残っているのでしょう。
一般的な「フェミニスト」の価値観では、ヤノマミ族の男尊女卑は考えることはできません。
ヤノマミ族の結婚事情
出典:asahi.com
ヤノマミ族の結婚は、基本的に自由恋愛がベースとなり、一夫一妻制となります。
しかし、日本のような戸籍があるわけでもなく、国家の法律が彼らの文化・習慣に根付いているわけでもありません。
そのため、きちんとした結婚制度というものはなく、彼らの中には「結婚」するにあたって儀式的なものはありません。
ただ、自由恋愛でパートナーとなり、基本的には一夫一妻制である。そして、子供を作り、子孫を残していくということですね。
ヤノマミ族の出産事情 【子供が精霊と言われる理由とは?】
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ヤノマミ族の出産は、私たちの価値観とは大きく違います。ヤノマミ族の女性は平均14歳で妊娠・出産を経験するんです。かなり早いですよね。
そして、出産は女性だけで、森の奥で行われます。出産に関して、男性は一切タッチしません。
森での出産で生まれてきた赤ちゃんは、へその緒がまだ付いた状態では「人間」ではなく、「精霊」として扱われます。そして、人間として育てるか、精霊として返すかの2択を迫られます。
ヤノマミ族には人工中絶はありません。人工中絶をする技術がないため、「生まれる前に人工中絶をする」という選択肢がないのです。
そのため、出産後に「育てられるのかどうか」、表現は悪いですが、「必要な子供かどうか」を選ぶのです。
育てられる・必要であると判断すれば、へその緒を切って人間の子供として育てます。しかし、育てられない・必要でないと判断されれば、精霊として返されるのです。
人間として育てるか、精霊として返すのかは、基本的には母親が決めます。
しかし、ヤノマミ族は男尊女卑であり、男性が権力を持っていますので、生まれてきた子供の父親や母親の父親(生まれてきた子の祖父)が選択権を持っていることが多いです。
精霊として返す場合はアリ塚へ
出産後、人間として育てるのではなく、精霊として返すことが選択された場合、赤ちゃんはその場で首を絞めて殺害されます。
そして、へその緒をつけたままバナナの葉でくるまれて、シロアリのアリ塚に放り込まれるんです。シロアリが赤ちゃんの遺体を食べつくした頃を見計らい、そのアリ塚を焼きます。
この儀式で、赤ちゃんは精霊として返されたことになり、それを神に報告します。
ちなみに、大人のヤノマミ族が亡くなった時も、同じような手順で精霊に返されることになります。
ヤノマミ族の食事事情
出典:jiji.com
ヤノマミ族の食事は、私たちとは違う点が多いです。基本的には、次のようなものを食べています。
・魚
・昆虫
・キャッサバ
これらから分かるように、肉や魚が主食であり、狩猟で食料を得ているんです。だから、男尊女卑という概念が生まれやすいのかもしれません。
ただ、全部を狩猟に頼るわけではなく、キャッサバやバナナなどの焼き畑農業をやっていることもあります。
そして、ヤノマミ族の食事事情の一番の特徴は、塩がないことです。ヤノマミ族は塩を持っていないため、食事に調味料の塩を使わないのです。素材の味を存分に楽しむ食事ですね。
ヤノマミ族は食事に塩を使わないため、ナトリウム摂取量が少ないです。そのために、ヤノマミ族のほとんどは低血圧であり、年齢を重ねても高血圧とは無縁です。
ヤノマミ族の平均血圧は上が100mmHg、下が60mmHg程度なのだそうです。このことから、高血圧は塩分摂取量と大きな関係があることがわかりますね。
ただ、いくら健康に良くて高血圧にならないからと言って、塩分を全く使わない食事というのは、私たちにとっては味気ない食事になってしまいます。
ヤノマミ族を参考にしつつ、塩分控えめというのが一番良さそうです。
ヤノマミ族の住宅事情
ヤノマミ族の住宅は、「シャボノ」と呼ばれる集合住宅です。中央に広場を作った円形~長方形の形をしていて、広場の周囲に各家族が自分のスペースを持って住んでいます。
円形の長屋・集合住宅のようなものですね。
ただ、仮設住宅のようなものですので、私たちが思うような住宅ではありません。
また、写真を見る限り、それぞれの家族用のスペースに壁・玄関のようなものはなく、オープンフロアに近いような感じです。
シャボノは円形、または長方形の形をしていますので、お互いの生活状況が全部見えてしまう、お互いがお互いを監視している状況であり、プライバシーはゼロと言えます。
ただ、プライバシーを大切にしたいというのは、あくまでも私たちの価値観ですので、ヤノマミ族の価値観ではプライバシーは大切なもの・重要なものではないのかもしれません。
ヤノマミ族の現在 【コロナ禍でどうなった?】
ヤノマミ族は現在、どうなっているのでしょうか?
2020年、世界は新型コロナウイルスの脅威に脅かされました。そして、ヤノマミ族が住むブラジルは、2020年9月時点で450万人以上の感染者が記録されています。
ヤノマミ族は抵抗力が弱い
出典:medium.com
ヤノマミ族は、文明とはかけ離れた世界でずっと生きてきた部族です。つまり、外界との接触をできるだけ断って生活してきました。
そのため、ずっと長い間、土着の病原菌以外には接触してこなかったんです。
私たちの身の回りにはたくさんの病原菌がいます。その病原菌を大量に浴びれば感染が成立しますが、少量なら病気にならず、その病原菌に対する抵抗力を鍛えることができます。
ヤノマミ族はアマゾンの奥地で外部との接触を断って生活してきたために、私たちよりも新しい病原菌に対する抵抗力が弱いのです。
金鉱業者との争いが勃発
ヤノマミ族は抵抗力が弱くても、今までは感染症が原因で命の危険に脅かされることはありませんでした。ヤノマミ族が日常的に触れる病原菌に対しては、抵抗力を持っていますから。
だから、外部との接触を今までのように断って生活をしていれば、ヤノマミ族は感染症に脅かされることはないのです。
しかし、ヤノマミ族の居住地域で金が発見されたことにより、その金を狙って、金鉱業者たちがヤノマミ族の居住地域に流入してくるようになりました。
それにより、今まではヤノマミ族が触れてこなかった病原菌がヤノマミ族の居住地域に持ち込まれることになったんです。
また、ヤノマミ族と金鉱業者の争いが起こり、アルコール中毒のヤノマミ族が出たり、金鉱業者がヤノマミ族を虐殺したりするなどの問題が起こっています。
1970年代から金鉱業者がヤノマミ族の居住地域に入るようになって以来、ヤノマミ族が感染症で亡くなるケースは多くなっているとのことです。
新型インフルエンザでは死亡者が出た
2009年、世界的に新型インフルエンザが流行りました。この時、ヤノマミ族は8人の死者を出しています。ヤノマミ族に新型インフルエンザを持ち込んだのは、金鉱業者と言われています。
新型インフルエンザの致死率が高かったのもありますが、ヤノマミ族の抵抗力が弱く、インフルエンザウイルスに触れたことがなかったため、重症化して死者が出たのではと言われています。
ちなみに、日本では新型インフルエンザで68人の死者が出ましたが、人口が1億2000万人で死者は68人、ヤノマミ族は人口が約30000人で8人の死者。
この差を考えると、ヤノマミ族が新しい病原菌に対する抵抗力が低いのは、間違いないと言えるでしょう。
新型コロナウイルスでも死者が出ている
出典:atalayar.com
2020年、新型コロナウイルスが全世界で流行しています。ヤノマミ族の中にも感染者が確認されていて、4月には新型コロナウイルスによる死者が出たことがわかっています。
また、3人のヤノマミ族の赤ちゃんが新型コロナウイルスで死亡したというニュースもあります。
ブラジル国防相は、ヤノマミ族への新型コロナウイルスの脅威はないと発表しています。
ですが、ブラジルで450万人以上が感染していることを考えると、いつヤノマミ族に新型コロナウイルスが蔓延してもおかしくないと言えるでしょう。
金鉱業者やマスコミの中に無症状の感染者がいて、その人たちがヤノマミ族の居住地域に侵入したら、一気に広まる可能性もあります。
新しい病原菌への抵抗力が弱いことがわかっている以上、せめて新型コロナウイルスの流行が収束するまでは、ヤノマミ族の居住地域には誰も立ち入らないような対策が必要でしょう。
まとめ
ヤノマミ族について、基礎情報や結婚、子供は出産後に精霊として扱われる理由、食事事情や新型コロナウイルスと現在についてまとめました。
・結婚は自由恋愛で一夫一婦制
・出産は森の中で行われる
・出産後の子供は精霊として扱われ、人間になるか精霊に返るかを選ぶ
・食事は肉や魚、昆虫、キャッサバ。塩はほぼ摂らない
・新型コロナウイルスによる死者が出ている
ヤノマミ族は今後、どうなっていくのでしょうか?
今のまま、外部との接触をできるだけ断ったまま、文明を受け入れずに生活をしていくのか注目していきたいですね。