ロボトミー殺人事件の犯人は桜庭章司!藤井医師との関係・動機・無限回廊も総まとめ

「ロボトミー殺人事件」ではロボトミー手術をした藤井医師の家族が殺害されましたが、犯人には同情の念も禁じえません。

 

今回はロボトミー殺人事件の詳細、犯人(桜庭章司)と生い立ちや藤井医師との関係、無限回廊のまとめを紹介します。

ロボトミー殺人事件とは

 

ロボトミー殺人事件とは、1979年9月26日に起こった殺人事件のことです。東京都小平市にある精神科医の藤井医師の自宅に男が押し入り、医師の妻と義母を殺害しました。

 

犯人は藤井医師に恨みを持つ桜庭章司です。

 

桜庭章司は以前、主治医である藤井医師によってロボトミー手術を受けさせられており、その後遺症に悩んでの犯行でした。

 

 

ロボトミー殺人事件の詳細

ロボトミー殺人事件を詳しく見ていきましょう。

 

 

犯人の桜庭章司が藤井医師宅に押し入って2人を殺害

 

 

1979年9月26日17時ごろ、東京都小平市にある精神科医の藤井医師の自宅に、犯人の桜庭章司が押し入りました。

 

藤井医師は桜庭章司の主治医でした。

 

桜庭章司は藤井医師と無理心中を図るつもりで、バルビタールという睡眠薬を服用してから、犯行に及んでいます。

 

バルビタールは芥川龍之介が自殺前に服用し、マリリン・モンローが自殺の時に大量服用した薬です。

 

桜庭章司はデパートの配達員を装って藤井医師の自宅に押し入り、まずは在宅していた藤井医師の義母(妻の母)の深川タダ子さんを手錠やガムテープなどで拘束しました。

 

そして、その後に帰ってきた妻の藤井道子さんも同様に拘束し、藤井医師の帰宅を待ちます。

 

しかし、18時半に帰宅する予定だった藤井医師は20時になっても帰宅せず、しびれを切らした桜庭章司は犯行を後日決行することにします。

 

ただ、拘束していた義母と妻を生かしてはおかず、刃渡り8cmのナイフで首と胸を切りつけ、さらに物盗りの犯行に見せるために銀行の通帳と現金46万円を持って逃走しました。

 

 

池袋駅で逮捕

 

犯行後の22時20分ごろ、JR池袋駅の中央口付近で手錠が入っている段ボールを落としたところを警察官に見られ、職務質問を受けています。

 

おそらく、犯行前に飲んだ睡眠薬によって眠気に襲われ、意識が朦朧としていたと思われます。

 

そして、そのまま西口交番に連れていかれ、所持品から血まみれのナイフや他人名義(藤井医師)の給料袋が発見され、銃刀法違反で逮捕されました。

 

しかし、そこからすぐに自供したというわけではなく、翌日の9月27日早朝4時ごろに帰宅した藤井医師によって妻と義母の遺体が発見され、警察に通報されたことで事件が発覚しています。

 

 

無期懲役が確定

 

銃刀法違反で逮捕されていた桜庭章司は、藤井医師の妻と義母の遺体が発見され、捜査が進んだことで、殺人容疑でも逮捕されることになりました。

 

1993年に東京地裁で無期懲役の判決が言い渡され、検察側・桜庭側も控訴しますが、1995年に東京高裁は控訴を棄却します。

 

桜庭章司は上告しますが、1996年に最高裁でも無期懲役となり、桜庭章司の無期懲役が確定しました。

 

 

ロボトミー殺人事件の犯人・桜庭章司の生い立ちや経歴

ロボトミー殺人事件の犯人の桜庭章司の生い立ちや経歴を見ていきましょう。

 

 

通訳になるも、親の介護で土木作業員に

 

桜庭章司は1929年に長野県松本市で生まれます。小学校の時に東京に引っ越し、小学校卒業後は東京高等工学校付属工科学校に進学しますが、家が貧しく、1年で退学しています。

 

1945年の終戦の頃から、ボクシングを始め、北陸5県のボクシング大会で優勝したこともありました。

 

1949年には英語を独学で勉強し、20歳にして通訳の資格を取ります。

 

この資格を活かして、占領軍基地のある新潟のNTTで働き始め、さらにはアメリカ軍の諜報機関OSIにもスカウトされ、さらに英語力に磨きをかけていきました。

 

しかし、通訳として活躍していた矢先、母親の介護のために長野県松本市に帰ることになります。

 

そこでは英語を生かせる仕事がなく、日雇いの土木作業員として働くことになりました。

 

 

初めての逮捕

 

土木作業員として働いていた桜庭章司は、ある日職場でいじめを発見し、いじめを諫めました。ただ、土木作業員は気の荒い人たちが多かったので、すぐに殴り合いのけんかになりました。

 

ですが、ボクシング経験者の桜庭章司はすぐに相手をノックアウトして、その場は終わりました。

 

そんなある日、1957年のことです。桜庭章司は手抜き工事を発見します。

 

正義感が強い桜庭は直属の上司に手抜き工事をやめるように言いますが、「お前はクビだ」とクビを宣告されたために、直接社長に訴えることにしました。

 

手抜き工事を世間にばらされると困る社長は、桜庭章司に酒をたっぷり飲ませ、5万円を握らせて口止めしました。当時の5万円は大卒初任給の3倍以上ですから、かなりの大金です。

 

桜庭は作家になりたいという夢を持っていて、この5万円があればしばらくは仕事をせずに、執筆作業に専念できると思い、思わずのこの5万円を受け取ってしまったんです。

 

しかし、以前に桜庭章司がいじめを諫めた時にノックアウトした相手が桜庭を訴えます。

 

そして、取り調べでは、社長が桜庭に脅されて金を渡したと供述したため、桜庭章司は暴行と恐喝の疑いで逮捕されました。

 

初犯ということで執行猶予付きの判決になりましたが、1958年に賃金不払いと不当解雇問題で社長に直談判したことで、恐喝容疑で再度逮捕されます。

 

これにより、執行猶予が取り消されて、刑務所に収監されています。

 

 

スポーツライターとして活躍

 

出所後は、東京で鉄筋工として働きながら、翻訳のバイトをしていました。

 

そして、当時はきちんとした海外スポーツライターおらず適当な記事を載せていたスポーツ新聞社にクレームの手紙を送ったところ、スポーツライターの依頼が舞い込むようになりました。

 

桜庭章司はOSIにスカウトされるほどの英語力を持ち、ボクシング選手という経歴、さらに作家を目指していたことで養われた文章力がありました。

 

そのため、海外のスポーツライターは適任の仕事だったのです。

 

桜庭章司は売れっ子のスポーツライターとして活躍するようになりました。スポーツライターとしてのペンネームは鬼山豊です。

 

1962年から1964年ごろの桜庭章司は、普通のサラリーマンの3~4倍の月収を稼ぎ、資料整理のためのアルバイトを2人も雇っていたそうで、かなりの売れっ子ライターだったようです。

 

 

妹との争いで措置入院に

 

売れっ子スポーツライターとして活躍していた1964年3月3日のこと、年老いた母親の介護問題を話し合うために妹宅に立ち寄った桜庭章司は、妹と言い争いになります。

 

そして、かなり激高したようで、妹宅の茶ダンスやガラスの人形ケース、陶器などを破壊し、妹の夫が110番通報したことで、桜庭章司は器物破損の容疑で現行犯逮捕されたんです。

 

妹側からの告訴は翌日に取り下げられたものの、桜庭には前科があり、刑務所に収監されていた過去が問題視されます。

 

さらに父親が「息子は、昔1ヵ月間ほど精神病院へ入院していたことがあります」と証言したことから、釈放されずに精神鑑定を受けることになりました。

 

桜庭章司はこの時点で精神病院への入院歴はなく、父親がなぜこのような証言をしたのかは不明です。

 

そして、梅ヶ丘病院で精神鑑定を受けた結果、「精神病質」と鑑定され、桜ヶ丘保養院に措置入院(強制入院)することになりました。

 

ここからが、桜庭章司の本当の悪夢の始まりでした。

 

 

ロボトミー殺人事件の動機は藤井医師への恨みだった

ロボトミー殺人事件を起こした桜庭章司の動機は、自分にロボトミー手術をした藤井医師への恨みからでした。

 

 

措置入院時は支配されていた

 

妹との喧嘩で、なぜか精神病院に強制的に入院させられてしまった桜庭章司ですが、桜庭はこの措置入院中のことを「刑務所よりもひどかった」と回想しています。

 

当時の精神科病棟では、精神科医が絶対的な権力を持ち、患者を支配していました。

 

特に、閉鎖病棟は外部からは完全に遮断された環境で、病棟内でどんなことが起ころうとも、それが表に出てくることはほとんどありません。

 

患者が訴えても、「精神病患者が言うことは信頼できない」と取り合ってもらえなかったのです。

 

措置入院した桜ヶ丘保養院での主治医は藤井医師です。桜庭章司は藤井医師に権力で支配されていたのです。

 

これがどこまで事実かは分かりませんが、桜庭章司がそのように感じていたことだけは間違いないでしょう。

 

 

1964年にロボトミー手術を受ける

 

1964年3月に措置入院となった桜庭章司は、1964年11月2日、ロボトミー手術の一種であるチングレクトミー手術を受けることになります。

 

チングレクトミー手術とは、患者の攻撃性や衝動性を抑制する目的で、脳の帯状回転の前部の一部を切除する手術です。

 

ちなみに、ロボトミー手術は当時の精神医学会では画期的な治療法として脚光を浴びていた治療法です。

 

ただ、桜庭章司は同じ病棟に入院していた女性患者がロボトミー手術を受けたことで、人格が変わり、その後自殺してしまったことに激怒し、主治医の藤井医師に詰め寄ります。

 

藤井医師は桜庭章司のこの行動を危険ととらえ、ロボトミー手術を行うことにしたんです。

 

しかし、桜庭章司は自分の人格が変わることを恐れ、ロボトミー手術を拒否し、絶対に承諾書にはサインしませんでした。

 

そして、手術をするためには母親のサインが必要だったことを知っていたため、母親にも絶対に承諾書にサインをしないように頼んでいたんです。

 

でも、藤井医師は肝臓の検査と偽って、桜庭章司に全身麻酔をかけ、母親を熱心に説得して、承諾書にサインをさせて、ロボトミー手術を決行したんです。

 

そして、桜庭章司は1965年3月3日に退院しますが、藤井医師は退院時に手術の承諾書にサインをさせました。承諾書にサインをしないと退院させないと脅したようです。

 

退院&自由と引き換えに、承諾書にサインをさせたというわけですね。

 

 

後遺症に悩まされ続けた

 

 

全力で拒否していたロボトミー手術を騙されて受けた桜庭章司は、その後はロボトミー手術の後遺症と思われる症状に悩まされ続けました。

 

退院後、原稿の執筆スピードは手術前の5分の1に落ちていました。また、働く意欲もなくなり、美しいものを見ても感動できず、スポーツライターの道は閉ざされました。

 

そこで、大型特殊免許を取得し、工事現場でブルドーザーなどの運転手として働くようになりました。

 

しかし、運転中にてんかん発作が起こって、ブルドーザーが暴走するなどの事故を起こすようになります。

 

名古屋中央労災病院を受診したところ、ロボトミー手術の後遺症の可能性が高いと診断されています。

 

抗てんかん薬を飲めばてんかん発作は治まりましたが、運転はできなくなり、工事現場で働くことを諦めざるを得なくなりました。

 

 

強盗で懲役4年

 

スポーツライターの道が閉ざされ、てんかん発作で工事現場での仕事も諦め、思い悩んだ桜庭章司は、1973年に酔っ払った状態で衝動的にナイフを買い求め、貴金属店に押し入りました。

 

そこですぐに店員に取り押さえられ、偶然に通りかかった警察官に現行犯として逮捕されます。

 

強盗としての犯行は未遂であるものの、前科があったことで、懲役4年の実刑判決が言い渡されました。

 

 

マニラで犯行を決意

 

刑務所から出所後、1976年からは弟が経営する会社で働いていましたが、英語力を生かすために、フィリピンのマニラ支社で働くことになりました。

 

フィリピンのマニラでは2年間働いていましたが、働く意欲がわいてきません。

 

そして、マニラ湾の夕陽を見ても何の感動もしない自分に気づきました。

 

マニラ湾の夕陽は美しいことで世界的に有名です。

 

それなのに、その夕陽を見ても感動しない。俺はもはや人間ではない。生きている資格もない。こんなことになったのは藤井医師のせいだ。藤井医師を殺して、自分も死のう。

 

このように決意が、ロボトミー殺人事件を起こすきっかけになったのです。

 

 

ロボトミー殺人事件後、手術ミスが発覚していた

 

ロボトミー殺人事件で桜庭章司が逮捕された後、再び精神鑑定が行われました。精神鑑定の結果、桜庭章司は責任能力ありと判定されました。

 

そして、もっと重大な事実が判明したんです。その事実とは、脳内に手術用器具が残留していたことです。

 

つまり、ロボトミー手術(チングレクトミー手術)を受けた1964年からロボトミー殺人事件が起こった1979年まで、桜庭章司は手術器具が頭の中に残されたまま生活していたのです。

 

ロボトミー手術を実際に執刀したのは精神科医の藤井医師ではなく、加藤雄司医師でした。執刀医の責任はもちろんですが、手術を本人の同意なく強行した藤井医師の責任も大きいですね。

 

また、精神鑑定では桜庭章司に脳波の異常があることも認められました。

 

 

ロボトミー殺人事件のその後と現在① ロボトミー手術は行われなくなった

 

ここからは、ロボトミー殺人事件のその後と現在を見ていきましょう。

 

ロボトミー手術は、1960年代までは画期的な精神病の治療法として脚光を浴び、積極的に行われていました。

 

しかし、その有効性が疑問視されること、人格が変わってしまうという人権問題などが考慮され、1970年代以降はほぼ行われていません

 

また、ロボトミー手術の創始者が、手術をした患者に拳銃で撃たれる事件が起こったことも、ロボトミー手術が行われなくなったことと関係しているかもしれません。

 

 

ロボトミー殺人事件のその後と現在② 桜庭章司は自死権を主張するも認められず

 

ロボトミー殺人事件で逮捕された桜庭章司は、無期懲役の判決が言い渡されています。でも、彼は「無罪か死刑か」を求めていました。

 

無罪か死刑かのどちらかでなければ、ロボトミー手術を理解していない」という主張からです。

 

おそらく、次のような考えなのでしょう。

 

・無罪→ロボトミー手術が悪い。犯行はロボトミー手術のせいである。
・死刑→ロボトミー手術によって生きている価値がなくなった。人間ではなくなった。

 

それでも、無期懲役判決が変わることはありませんでした。そして、2008年に桜庭章司は自死権を求める裁判を起こしました。

 

刑務所の中で体調不良になり、生きていても仕方がないと考えて、自殺しようとしたんですね。

 

ただ、刑務所の中は刑務官の目があるので自殺はできません。だから、自死権が認められない精神的苦痛があるとして訴えを起こしたのです。

 

しかし、自死権は法律で認められていない権利として、仙台地裁は訴えを棄却しています。

 

 

ロボトミー殺人事件のその後と現在③ 「無限回廊」で事件詳細がまとめられている

ロボトミー殺人事件を題材した小説が発表される

出典:amazon.co.jp

 

小説家の島田荘司によって、このロボトミー殺人事件を題材にした短編小説「溺れる人魚」が発表されました。

 

舞台はポルトガルのリスボンになっていますが、御手洗潔シリーズの1作ですので、興味のある人は、ぜひ読んでみてください。

 

また、このロボトミー手術やロボトミー殺人事件の背景は、「無限回廊」というサイトに詳しくまとめられています。

 

 

ロボトミー殺人事件の元凶・藤井医師がロボトミー手術を強行した理由とは?

 

藤井医師はなぜロボトミー手術を強行したのでしょうか?

 

桜庭章司は頑なにロボトミー手術を拒否していましたし、母親にも手術の同意書にサインをしないように頼んでいたくらいです。

 

それなのに、肝臓の検査と嘘をついて全身麻酔をかけて、母親を熱心に説得して同意書にサインをさせています。

 

・ロボトミー手術が専門で自分の功績をあげたかった
・博士課程の研究をなんとしてでも進めたかった
・出身大学の慶応大学医学部の医局から症例数を増やすように圧力をかけられていた
・ロボトミー手術で本当に良くなると心から信じていた
 
以上のように、自己顕示欲や上司からの圧力の他に、本気で桜庭章司のためを思って手術を強行したという可能性が考えられます。
 
ただ、無理やりにロボトミー手術をしなければ、殺人事件は起こらなかったし、桜庭章司の悲劇もなく、スポーツライターとして活躍し続けることができたのにと思ってしまいますね。
 

 

ロボトミー殺人事件のまとめ

ロボトミー殺人事件の経緯、犯人の桜庭章司の生い立ちや経歴、藤井医師との関係や動機、手術ミスの判明などその後をまとめました。

 

罪のない藤井医師の妻と義母を殺害するのは同情の余地はありません。

 

でも、桜庭章司がロボトミー手術を無理やり受けさせられたこと、その後の人生を考えると、なんともやりきれないですよね。

 

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