通常の方法では閲覧する事ができないネットの領域で、その匿名性の高さから犯罪の温床になっているダークウェブが話題です。
この記事ではダークウェブの仕組みや入り方、赤い部屋などの怖い都市伝説、日本や海外で実際に起こっているダークウェブにまつわる事件などについてまとめました。
この記事の目次
ダークウェブとは
「ダークウェブ」とは、GoogleやYahooなどの一般的な検索エンジンを用いた方法では検索する事ができず、ChromeやInternet Explorer、Safari、Firefoxといった一般的なインターネットブラウザでは閲覧する事ができない、高度に秘匿化、利用者の匿名化がなされたウェブサイト全体を示す言葉です。
その匿名性の高さによって、ダークウェブには違法性の高い商品や情報の取引が行われているサイトや、通常のインターネット上では閲覧できないような違法性が高く過激な内容のウェブサイトが多数存在しています。
ダークウェブでの取引には主にビットコインなどの仮想通貨が用いられるため、ここ数年間でそうした仮想通貨が一般的に認知され始めたのと同時にダークウェブへの注目度も上昇しており、一般向けのメディアでもダークウェブやそれに関連した言葉を目にする事が多くなっています。
今回はこの「ダークウェブ」についてまとめていきます。
通常の方法で閲覧できるウェブサイトはサーフェイスウェブ(表層ウェブ)
ダークウェブの説明によく用いられるのが上の海に浮かぶ巨大な氷のかたまりのイラストです。
巨大な氷塊がインターネットのウェブサイト全てを表していて、そのうちの海面に出て見えている部分が、通常の検索とブラウザで誰にでも閲覧できる一般的なウェブサイトを示しています。
この部分は「サーフェイスウェブ(surface Web、表層ウェブ)」と呼称されていて、具体的には、企業、団体、公共機関、政府などの公式サイトや個人で運営され全体に公開されているサイト。また、SNS、ECサイト、ブログなどのウェブページのうちで、パスワードなどを必要とせずネット利用者全体に公開されている部分などがこれに含まれます。
こうしたサーフェイスウェブに含まれるのはインターネットに存在するウェブページ全体の5パーセント程度に過ぎないと言われています。
誰でもが閲覧できない領域全体をディープウェブと呼ぶ
上の図で言うと、サーフェイスウェブの下の海中部分にある「Deep Web(ディープウェブ)」と書かれている部分は、通常の検索エンジンによる検索が回避される設定がされていて、一般的なブラウザで閲覧すること自体は可能であるものの、そのためにパスワードが必要であったりして、一定のプライベート性が確保されている領域全体を示しています。
これらには例えば、閲覧にはパスワードの入力が必要とされるSNSの管理画面や、会員登録していなければ閲覧できない会員制サイトなどが含まれます。業務などで使われる企業用のウェブサイトなどもほとんどがこのディープウェブに該当します。
かなりわかりやすくいえば、ログインにパスワードが必要とされるようなウェブ領域は全てディープウェブにカテゴライズされます。
したがって、このディープウェブの部分がインターネットのウェブサイト全体のほとんど(90パーセント以上)を占めていると言われています。
ダークウェブとはディープウェブのうちの利用者の匿名性に特化した領域
ダークウェブは、上のイラストでは、最も下層に描かれている「DarkWeb」の部分を指しますが、より正確に言うと、ダークウェブは上で説明したディープウェブに含まれている領域です。
ダークウェブとは、通常の検索エンジンではインデックス化されないディープウェブの領域に存在するサイトの中でも、さらに、利用者の匿名性を最大限に高める事を目的とした特定のソフトウェアの利用や、設定を行うことによってのみ閲覧する事が可能なサイト群を指している言葉です。
この高度な匿名性が利用される形で、ディープウェブは児童ポルノや違法薬物などを売買するブラックマーケットとして使われたり、サイバー攻撃を行うために利用されたりしていて、なんとなく「怖い」というイメージがついているようです。
ただその一方で、ダークウェブの高度な匿名性は、特定の政府などによって行われているインターネット検閲を回避するのに有効であるため、抑圧的な国家の市民が安全に情報にアクセスできる手段としての側面も持ち、ニューヨークタイムズやBBCをはじめとする多くの海外の報道機関が、そうした人々のためにダークウェブ版のニュースサイトを設置しています。また、Facebookもそうした自由にインターネットを利用できない人々に向けて、ダークウェブ版の公式なウェブサイト(https://facebookcorewwwi.onion/)を開設しています。
世界的企業であるFacebookが活用している事からもわかりますが、ダークウェブとはあくまでもツールであり、その機能が犯罪に利用されているだけであって、それ自体が「怖い」というわけではありません。ただ、不用意に近づくと犯罪に巻き込まれたり、実害が生じたりする場合があるので、正しい知識を持って利用する事が大切です。
ダークウェブの仕組みや誕生の歴史
ダークウェブの仕組みについても簡単にですがみていきます。
一般的な方法でインターネットが利用された場合、アクセス元の特定は可能ですが、ダークウェブではアクセス元を特定する事が非常に難しい仕組みになっていて、それによって匿名性が高められています。
例えば、ダークウェブへのアクセスに必要なソフトウェアとして最も有名な「Tor」は世界中にある複数のサーバーを経由して、その通信を何層にも暗号化する事によってその回線を辿れなくしてアクセス元を特定できなくするような仕組みに設計されています。
ダークウェブを担保する仕組みは元々はアメリカ海軍が開発した暗号化通信技術
出典:https://res.cloudinary.com/
このダークウェブでの匿名性を担保する仕組みには、元々はアメリカ海軍調査研究所によって開発された「オニオン・ルーティング(Onion routing)」と呼ばれる暗号化通信技術が利用されています。
この「オニオン・ルーティング」は、かなり簡単にいえば、ルーターを経由する度に、まるで玉ねぎの皮のように何層にも暗号化と複号が繰り返される事によって通信元を隠匿する仕組みです。
このオニオン・ルーティング技術を元にして、2002年10月に「Tor(トーア、The Onion Router)」というソフトウェアがオープンソースとして公開されました。このTorの開発プロジェクトはアメリカ海軍から2004年に非営利団体「電子フロンティア財団 (Electronic Frontier Foundation) 」へと受け継がれ、2006年からは新たに設立された「The Tor Project, Inc.」という非営利団体によって運営されています。
2008年には、一般的なインターネットからTorにアクセスしやすくする事を目的とした「Torブラウザ」の開発がスタートし、これを契機にして現在ダークウェブと呼ばれている領域が形成されたと言えます。
現在のダークウェブと言われる領域はこの「Tor」によって担保されているといっても過言では無いです。信用性の高い匿名性が確保された結果、管理する事が難しい無法地帯が生まれ、現在のダークウェブが形作られていると言い換えることも可能です。
ダークウェブへの入り方はTorブラウザを利用する
ダークウェブは特定の手順を踏めば誰でも閲覧する事が可能です。
ダークウェブへの入り方としては、ここまででも触れている「Tor」というソフトウェアを利用する必要があります。そのためにはます「Torブラウザ」という専用のブラウザをダウンロードします。
ダークウェブの大部分は「.onion」というドメインがついているサイトですが、これにアクセスするためにはTorブラウザが必要です。
このダウンロード自体はTorブラウザのダウンロードページにアクセスして手順通り進めていけばそれほど難しくはありません。このダウンロードそのものには何の危険もありませんが、必ず公式のウェブサイトからダウンロードして下さい。
Torを介してダークウェブに接続する前に、ウェブカメラに何かをかぶせるなどして隠す、VPNを有効にするなどの基本的なセキュリティ対策は必ず行ってください。
それまでに利用していたブラウザのウィンドウを全て閉じてからTorを起動して接続をクリックすると、Torのホーム画面が表示されます。Torではウィンドウを最大化しない方が良いです。ウィンドウを最大化した場合、画面解像度から追跡される可能性が生じます。
Torブラウザを起動するとDuckDuckGoという検索エンジンの検索窓が出るのでそこにワードを入力するば普通のブラウザのように検索が可能です。このブラウザを使い「.onion」というドメインがついているサイトを検索すればダークウェブを閲覧する事ができます。
安易にダークウェブにアクセスすると実害が生じる恐れがあります。自己責任で行ってください。とにかく、ダークウェブにアクセスして誰かと連絡をとったり、そこから何らかのデータをダウンロードしたりする事は絶対に避けた方が良いです。
ダークウェブの怖い都市伝説① 海外の拷問サイト「赤い部屋」の噂
ダークウェブには、様々な怖い噂がありますが、「赤い部屋」という都市伝説が有名です。
この「赤い部屋」では、動画の生配信が行われていて、仮面を被った何者かが、何処かからか拉致してきた人を監禁し拘束しているそうです。
動画の視聴者はこの配信者に幾らかの金を支払う事で、拘束されている人に自分の望む拷問を加えさせる事ができると言われています。
この「赤い部屋」は、おそらく都市伝説で事実ではありませんが、こうしたダークウェブにまつわつ都市伝説的な噂はネット上で数多く囁かれています。
ダークウェブの怖い都市伝説② 「ブランクルームスープ」
「赤い部屋」に類似した都市伝説としては「ブランクルームスープ」という有名な都市伝説があります。
これは実際にネットに流出した不気味な動画が元になっています。この動画は、どこかの部屋で、男が苦しそうな様子でスープを食べていて、レイレイというキャラクターの着ぐるみの2人がその男を慰めているような仕草をしているというものです。
この動画はダークウェブから流出したものだと噂されていて、この男が食べているのは妻の遺体で作られたスープだとか噂されています。
本当にこの動画の出所がダークウェブかどうかまでは不明なのですが、実際に映像が残っているだけにとても不気味です。
ダークウェブに関係する事件① 日本企業607社に対するサイバー攻撃
ダークウェブを舞台に実際に起こった事件についても見ていきます。
2020年12月に発覚した、日本国内の少なくとも607の企業や行政機関がサイバー攻撃を受けていた事件ですが、これはVPN装置の脆弱性を突かれたもので、盗まれた認証データがダークウェブ上にリスト化されて公開されていました。
2020年12月、日本国内で607の国内企業や行政機関がサイバー攻撃を受けた。この攻撃はVPN機器に存在した脆弱性が原因と言われている。全世界で5万台に上る、脆弱性を抱えた機器の情報がダークウェブ上のフォーラムで公開されていた。この情報は約36MBの圧縮データとして、ユーザー名、パスワード、アクセス権、IPアドレスなどが含まれていたことがわかっている。
ダークウェブに関係する事件② 海外では人身売買も
ダークウェブ上のウェブサイトはほとんどが海外の者という事もあり、そこで起こる事件も海外を舞台にしたものの方が圧倒的に多いです。
2017年7月11日に、当時20歳のイギリス人のグラビアモデル、クロエ・アイリングが偽の撮影の仕事を持ちかけられてイタリアのミラノに誘い出され、そのまま拉致監禁されるという事件が起こりました。
この事件は約1週間後に、犯人の1人のルーカス・ヘルバが英国領事館までクロエさんを連れてきて解放したことによって解決しましたが、この犯人の男はその後の取り調べで、ダークウェブ上で人身売買を行っていると言われていた「ブラック・デス」のメンバーだと名乗りました。
ヘルバ容疑者は自身を「ブラック・デス」のメンバーだと名乗ったのだ。ブラック・デス(黒死病=ペスト)は、司法当局が実在するかどうか不明としている非合法グループだが、女性を誘拐してダークウェブ上で人身売買を行う組織として知られている。
この事件を報じた英紙デイリーメールによると、「ブラック・デス」には子供がいる女性をさらわないという規則があったため幼い子供がいるクロエさんは解放されたという事でした。また、「ブラック・デス」は、爆破や麻薬取引、人身売買や武器売買などを行っているという内容も書かれていました。
この犯罪組織はかなり前から存在を報じられているが、当局がこれまでに関与を突き止めた犯罪行為は誘拐だけだ。しかしデイリーメールは、同組織が爆破や麻薬取引、人身売買、武器売買なども行っていると付け加えている
デイリーメールはいわゆるタブロイド紙で、ゴシップな内容で知られている新聞なのでこれをもって真実だというのは少し抵抗があるのですが、実際にイギリスで知名度のあるグラビアモデルが誘拐の被害に遭って、その犯人が、以前からダークウェブ上での人身売買を公言している犯罪組織を名乗った事で、ダークウェブで人身売買などの犯罪が行なっているとする噂に真実味が生まれました。
ダークウェブに関係する事件③ 最大の児童ポルノサイトで337人が逮捕
出典:https://www.newsweekjapan.jp/
海外ではダークウェブを利用した児童ポルノサイトが大きな問題になっています。
2019年10月16日、ダークウェブ上の世界最大の児童ポルノサイトの運営者、利用者に対しての、アメリカ、イギリス、韓国などによる合同国際捜査によって、アメリカ、イギリス、韓国、アイルランド、ドイツ、スペイン、カナダ、チェコ、アラブ首長国連邦、サウジアラビアなどの世界中38カ国で合計で337名の逮捕者が出た事が報じられています。
ダークウェブ(暗号化などでアクセスに制限のあるインターネットコンテンツ)上のこのサイトには20万件以上の動画が掲載されており、合わせて100万回以上のダウンロードが確認された。イギリスの国家犯罪捜査局(NCA)によると、イギリス、アイルランド、アメリカ、韓国、ドイツ、スペイン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、チェコ、カナダなど38カ国で逮捕者が出た。
引用:「児童ポルノのダークウェブ」に国際捜査 38カ国で300人超が逮捕
この児童ポルノサイトの運営者だった韓国人ソン・チョンウは逮捕され禁錮刑を受けています。
ダークウェブ上ではこうした児童ポルノ被害が後を絶たず、ダークウェブが問題視される大きな要因となっています。なお、ダークウェブ上でこうした児童ポルノをダウンロードした場合、ダウンロードした側も罪を問われる可能性があります。
ダークウェブに関係する事件④ 海外では新型コロナウイルスワクチンを利用した犯罪が横行
出典:https://image.itmedia.co.jp/
新型コロナウイルスが世界中で感染拡大している事を利用し、ダークウェブ上で本物の新型コロナウイルスワクチンを高値での密売が行われている事が確認できます。
ロシアのコンピューターセキュリティ会社「カスペルスキー」の調査報告によると、ダークウェブ上で偽のワクチンを高値で販売したり、ワクチンを摂取したとする証明書の偽造したりする、新型コロナを利用した詐欺事件なども横行しているという事です。
驚くべきことに、こうした本物かどうかも分からないワクチンの取引が、1人の販売者あたり100回から500回も成立しているという事で、かなりの利益を上げていると見られています。
ダークウェブに関係する事件⑤ 日本の匿名掲示板「onionちゃんねる」も犯罪の温床
海外では人身売買、臓器売買、違法薬物の売買などディープウェブを利用して様々なものが取引されていると言われていますが、日本のディープウェブサイトである匿名掲示板「onionちゃんねる」をのぞいて見ると、ここでも様々な違法な取引が行われている事がすぐにわかります。
クレジットカードやメールアドレス、個人情報が大量売買や、「アイス」、「野菜」などといった隠語を使った違法薬物の取引に関する書き込みなどがかなり頻繁に確認できます。
さらに、拳銃が弾丸付きで売られていたり、犯罪の仲間を募ったりといった事も普通に行われているようです。
まとめ
今回は、特定のブラウザを利用しなければ閲覧する事ができず、その高い匿名性からネット犯罪の温床となっているダークウェブについてまとめてみました。
ダークウェブとは、玉ねぎのように何層にも暗号化された仕組みの通信方法によって匿名性に特化したウェブ領域を指し、その特徴から犯罪の温床となっていて問題視されています。
ダークウェブへの入り方自体は難しい事なく、簡単にインストール可能な「Torブラウザ」というブラウザを使って「.onion」というドメインがついたURLにアクセスすれば誰でも入る事ができます。ただ、不用意にダークウェブの悪質なサイトにアクセスすると、犯罪に巻き込まれたり、実害を被ったりするため注意が必要です。
ダークウェブには、「赤い部屋」や「ブランクルームスープ」といった不気味で怖い都市伝説が溢れていますが、ここ数年ではそれよりも怖い実際の事件が度々報じられています。
日本では大規模な情報流出や仮想通貨の流出、海外では人身売買や臓器売買、児童ポルノ、新型コロナウイルスの密売など、ダークウェブに関係する様々な事件が報じられています。
ダークウェブには犯罪を目的にしたウェブサイトが多数存在するため、不用意にアクセスすることは絶対に避けましょう。