時効とは

時効とは、ある出来事から一定の期間が経過したことで、法律上の根拠の有無に関わらず、その事実状態に適合する権利が認められる制度、または権利が変動したと認められる制度です。

辞書に掲載されている「時効」の説明を引用してみましょう。

１ 法律で、一定の事実状態が一定期間継続した場合に、真実の権利関係に合致するかどうかを問わずに、その事実状態を尊重して権利の取得・喪失という法律効果を認める制度。民事上では取得時効と消滅時効、刑事上では公訴時効と刑の時効とがある。

 

引用：時効とは何？Weblio辞書

この辞書の説明も難しいですね。

簡単に言うと、時間が経ったことで「罪を犯した人は許してあげる」、「あなたの権利を認めてあげる」、「あなたの責任はなかったことにしてあげる」という制度なんです。

刑法上の時効

時効には刑法上の事項と民法上の時効の2つがあります。

刑法上の時効は、一定期間逮捕・起訴されなかったら、罪に問われなくなるというもので、「公訴時効」と呼ばれます。

時効が成立したら公訴できなくなるため、公訴時効成立後に犯人が名乗り出たとしても、逮捕・起訴されることはありません。

もちろん、裁判で裁かれることもありません。

つまり、その事件の犯人だと判明しても、罪に問われることはないのです。

ただ、犯人が海外に逃亡していた時などは、その期間は時効が停止します。

民法上の時効

「時効」と言えば、事件の時効つまり刑法上の時効が有名ですが、民法上の時効もあります。

民法上の時効は次の2つがあります。

時効は何年？時効期間一覧を紹介

刑事事件の時効は何年なのでしょうか？時効期間の一覧を見ていきましょう。

殺人罪などは時効はありません。つまり、何年逃げようと、時効になることはなく、いつまでも警察に追われ続けることになります。

最高刑が無期懲役の場合の時効は30年、そこから罪が軽くなるにしたがって時効の期間は短くなり、時効期間の中で最も短いものは1年になります。

時効廃止はいつから？

殺人事件の時効は廃止されています。「時効は廃止」と聞いて、「あれ？以前は殺人事件の時効はあったよね？」と思った人はいると思います。

確かに、一昔前までは殺人事件の時効はありました。殺人事件の時効は刑事訴訟法改正で変わっているのです。

2010年4月27日の改正刑事訴訟法の公布・施行によって、殺人事件の時効は廃止されました。

また、2010年4月27日の改正刑事訴訟法公布時点で、時効が成立していない殺人事件も時効は廃止されています。

2010年時点で時効が成立していない殺人事件は、1995年4月27日以降に起こった殺人事件になります。

そのため、1995年7月30日の八王子スーパーナンペイ事件や、2000年12月30日の世田谷一家殺害事件は発生から20年以上が経過していますが、時効は成立していません。

現在も捜査は続けられています。

時効成立の有名事件一覧

時効が成立した有名事件一覧を見ていきましょう。

これはあくまでも「有名な時効成立事件」です。

世間にはあまり知られていない事件もあり、それらの中にも時効になっているものはたくさんあります。

平成20年だけで、次の件数が時効になっているんです。

時効成立の有名事件①　三億円事件

三億円事件は、東京都府中市で起こった窃盗事件です。

1968年12月10日、東京芝浦電気の従業員のボーナス3億円を積んだ現金輸送車が、白バイ隊員に偽装した犯人に「ダイナマイトがつけられている」と停車させられ、車ごと強奪されました。

この事件は暴力に訴えなかったこと、さらに保険がかけられていたことから、国内の金銭的被害がなく、「誰も傷つけない犯罪」と言われいます。

警察は必死の捜査を続けるものの犯人を特定できず、1975年に時効が成立しました。

時効成立の有名事件②　グリコ・森永事件

グリコ・森永事件は、1984年から1985年にかけて起こった企業脅迫の一連の事件です。「かい人21面相」と犯人が名乗ったこともあり、「かい人21面相事件」と呼ぶこともあります。

江崎グリコの社長を誘拐し、グリコや森永製菓、丸大食品、ハウス食品、不二家、駿河屋などを脅迫していきました。

また、スーパーやコンビニに並んだ森永のお菓子に青酸を混入させたこともありました。

犯人はマスコミに挑戦状を送り付けるなど劇場型犯罪として、世間を大きく騒がせましたが、犯人を特定することはできませんでした。

2000年、青酸入り菓子ばら撒き事件の殺人未遂罪が時効を迎えたことで、グリコ・森永事件のすべての事件は時効となり、迷宮入りしました。

時効成立の有名事件③　警察庁長官狙撃事件

1995年3月30日、警察庁長官だった國松孝次氏が何者かによって自宅前で狙撃されました。

拳銃は4発発砲され、うち3発が国松氏の腹部に命中し、救急搬送された先の病院で手術中に3度も心肺停止になるなど瀕死の状態でしたが、2ヶ月後には無事公務に復帰しています。

犯行から1時間後に犯人からテレビ朝日に電話が入り、オウム真理教への強制捜査をやめるように脅迫しています。

現場からは朝鮮人民軍のバッジや大韓民国の10ウォン硬貨が見つかっていますが、犯人の特定はできず、2010年に時効が成立しました。

時効成立の有名事件④　北海道警察本部爆破事件

1975年7月に、札幌市の北海道警察本部3階にある金属製のロッカーが突然大爆発しました。この爆発は、殺傷能力が高い「パチンコ玉爆弾」によるものでした。

事件当日は土曜日だったこともあり、幸いにも庁舎内に人は少なく、死者ゼロ、負傷者4人の被害となりました。

東アジア反日武装戦線を名乗る犯行声明文が発見され、過激派による犯行と見られていましたが、犯人を特定できず、公訴時効が成立しました。

時効成立の有名事件⑤　福徳銀行5億円強奪事件

1994年8月5日、神戸市内の福徳銀行神戸支店の車庫で銀行の行員が現金の入ったジェラルミンケースを降ろそうとしたところを、2人組の男に襲われ、現金約5億4100万円を奪われました。

1999年に暴力団員と会社員の男2人を事件の犯人と特定しましたが、会社員の男は事情聴取直後に自殺しています。暴力団員の男は逮捕に至らず、2002年に公訴時効が成立しました。

会社員の男はグリコ・森永事件の犯人の1人という説もあります。

時効成立の有名事件⑥　下山事件

1949年7月5日に、当時の国鉄総裁である下山定則が失踪し、翌7月6日0時30分ごろに、北千住～綾瀬間の線路で轢死体となって発見されました。

この下山事件は時代背景が複雑で、自殺説・他殺説が入り乱れていましたが、結局は迷宮入りとなり、1964年に公訴時効が成立しました。

時効成立の有名事件⑦　赤報隊事件

赤報隊事件とは、1987年から1990年にかけて「赤報隊」を名乗る人物が起こした連続テロ事件です。

この中で特に、1987年5月3日の朝日新聞阪神支局襲撃事件は、目出し帽をかぶった犯人が朝日新聞記者を散弾銃で襲い、1人が死亡・1人が重体となりました。

2002年には、阪神支局襲撃事件が時効を迎え、2003年静岡支局爆破未遂事件が時効となったため、赤報隊事件は未解決のまま、すべて公訴時効になっています。

時効成立の有名事件⑧　長崎屋火災

1990年3月18日、尼崎市内にある長崎屋の4階で火災が発生しました。

この火災で5階にいた客や従業員が逃げ遅れ、15人が煙に巻かれて死亡し、6人が重軽傷を負っています。

この火事は火の気のないところから発生したため、放火と断定されましたが、犯人の特定には至らず、2005年に公訴時効が成立しました。

時効成立の有名事件⑨　新宿歌舞伎町ラブホテル連続殺人事件

1981年3月から6月にかけて、新宿歌舞伎町2丁目にあるそれぞれ別のラブホテルで3件の殺人事件が発生しました。

男女一緒にチェックインし男性が先に部屋を出ている、女性は絞殺（2、3件目は凶器がパンスト）、被害者から覚せい剤が検出されたなど共通点が多く、連続殺人として捜査されました。

しかし、犯人を特定することはできず、1996年に公訴時効を迎えました。

時効成立の有名事件⑩　青酸コーラ無差別殺人事件

1977年1月、東京都品川区で男子高校生が未開封のコカ・コーラの缶を拾い、自宅に持ち帰って飲んだところ、気分が悪くなり、救急搬送されたものの死亡しました。

コーラと男性高校生から青酸ソーダが検出されています。

同様の事件が東京と大阪でそれぞれ1件ずつ発生し、さらに東京では青酸入りのチョコレートが発見されました。

青酸ソーダを使った無差別殺人事件と見て捜査が進められましたが、事件は迷宮入りし、1992年に時効が成立しました。

時効成立の有名事件⑪　足利事件

足利事件とは、栃木県足利市で起こった殺人事件です。

足利市内のパチンコ店で両親と一緒に来店していた4歳女児が両親が目を離したすきに行方不明になり、翌日渡良瀬川の河川敷で遺体となって発見されました。

この事件では菅家利和さんが逮捕され、無期懲役の判決を受けました。

しかし、証拠となったDNA鑑定に不備があったとして再審請求が行われ、2009年から再審が行われた結果、2010年に無罪判決となっています。

誤認逮捕された菅家さんは無罪となった一方で、この事件は既に時効を迎えているので、真犯人はわからないままになっています。

また、北関東連続幼女誘拐殺人事件は足利事件と同一犯と見られていますが、この北関東連続幼女誘拐殺人事件も公訴時効となっています。

時効成立の有名事件⑫　井の頭公園バラバラ殺人事件

1994年4月23日に、東京都三鷹にある井の頭公園内のごみ箱から人間の足首が見つかり、その後に公園を捜索したところ、バラバラになった遺体が計27部分も発見されました。

被害者の頭部などは発見されていませんが、かろうじて被害者の身元は特定されています。

しかし、犯人に結び付くような情報・証拠などはほとんどなく、2009年に公訴時効を迎えました。

この殺人事件は人違い殺人、つまり被害者は誰かと間違われて殺害されたという情報もあります。

時効成立の有名事件⑬　悪魔の詩訳者殺人事件

1991年7月11日、筑波大学のキャンパス内で筑波大学助教授の五十嵐一さんが刺殺されているのが発見されました。

被害者の五十嵐さんは、元イスラム教徒のサルマン・ラシュディの小説「悪魔の詩」を翻訳していました。

「悪魔の詩」はイラン政府から反イスラーム的であるとして、この小説の作者（ラシュディ）や発行に関わった人に死刑宣告が出ていました。

また、五十嵐さんの殺害方法がイスラム式だったことから、悪魔の詩を翻訳したことで、イラン政府の息がかかった人・団体から殺害されたのではないかと見られています。

しかし、犯人の特定には至らず、2006年に公訴時効が成立しました。

時効成立の有名事件⑭　長岡京ワラビ採り殺人事件

1979年5月23日に京都府長岡京市で、ワラビ採りに山に入った主婦2人が行方不明になり、遺体となって発見された事件がありました。

この事件では主婦のポケットから「オワレている　たすけて下さい　この男の人わるい人」という走り書きのメモが見つかったものの、鉛筆は発見されないなど不審な点がありました。

また、主婦は2人とも数十か所以上も執拗に殴打されていました。

1人の主婦からは犯人のものと思われる体液も検出されましたが、犯人逮捕には至らず、1994年に公訴時効を迎えました。

時効成立の有名事件⑮　名古屋妊婦切り裂き殺人事件

1988年3月18日に、名古屋市内のアパートで臨月の妊婦が何者かによって殺害された事件がありました。

この妊婦はコードで首を絞められていた上に、お腹を切り裂かれて胎児が取り出されていて、代わりに電話の受話器とキーホルダーが入れられていました。

この猟奇的な殺人事件は有力な目撃情報や物的証拠がなく、捜査は迷走し、2003年に公訴時効が成立しています。

時効成立の有名事件⑯　札幌信金OL殺人事件

1990年12月19日、札幌信用金庫の社員である24歳の女性の行方が分からなくなりました。そして3日後、自宅近くで刺殺体となって発見されています。

この事件は早い段階で犯人は特定されています。犯人は被害者の高校の後輩である長田良二で、全国に指名手配されました。

しかし、長田の行方は分からず、2005年に公訴時効を迎えています。

時効成立の有名事件⑰　佐賀女性7人連続殺人事件

1975年から1989年にかけて、佐賀県内の半径20km圏内で7人の女性が絞殺される連続殺人事件が起こりました。

7件中6件の犯行が水曜日に集中していたことから、「水曜日の絞殺魔事件」とも呼ばれています。

1～4件目の事件は犯人が分からず、公訴時効を迎えました。5～7件目は犯人と思われる人物が逮捕されましたが、無罪判決になり、結局は未解決事件のままになっています。

時効成立の有名事件⑱　1チ-37号事件

1チ-37号事件とは、1961年から1963年にかけて起こった偽札事件のことです。この偽札はかなり巧妙な造りになっていて、全国22都道府県から合計343枚発見されました。

この偽札は「日本の偽札史上、最高の芸術品」とも言われていて、あまりにも判別が難しかったこともあり、1963年11月には千円札が伊藤博文から聖徳太子の肖像に変わったほどでした。

この偽札を使ったとみられる男は複数回目撃されていましたが、犯人の特定には至らず、1973年11月に公訴時効となっています。

時効成立の有名事件⑲　足立区女性教師殺人事件

東京都足立区の中川小学校で教員をしていた石川千佳子さん（当時29歳）が、1984年8月14日に行方不明になりました。

この事件は遺体が発見されず、殺人かどうかもわからない状態でした。

しかし、事件から26年後の2004年、当時中川小学校の警備員をしていて、石川千佳子さんの最後の目撃者である男性が綾瀬警察署に出頭し、自首しました。

その男性の供述によると、校内で肩がぶつかったことで石川さんと口論になった末、石川さんを殺害し、遺体をコンクリート詰めにして隠していたとのことです。

しかし、2004年時点で、既に時効が成立していたので、警備員の男は刑法で裁かれていません。

ただ、「遺体の隠匿」として遺族が民事裁判を起こし、殺人に関しても男性の責任を認め、約4255万円の支払いを求める判決が言い渡されています。

時効成立の有名事件⑳　北九州タクシー会社警備員強盗殺人事件

1988年1月5日、福岡県北九州市のタクシー会社営業所で警備員が殺害され、現金が強奪される事件が起こりました。

同じタクシー会社に勤務する男性を犯人と特定して指名手配しましたが、逮捕には至らず、2002年12月に公訴時効が成立しました。

公訴時効後の2007年、大阪府で年金の受給申請を行った男性が、家族から失踪届が出ていることが理由で年金を受給できず、家庭裁判所で失踪届の取り消しを求めました。

その後、この男性が指名手配されていた男性であることが判明しました。

時効成立の有名事件㉑　篠崎ポンプ所女性バラバラ身元不明殺人事件

1988年9月9日、東京都江戸川区東篠崎の東京都下水道局篠崎ポンプ所にある、汚水4号沈砂池で女性の上半身の遺体が発見されました。

遺体は年齢は20代女性ということが判別されただけで、身元は判明せず、また犯人も特定できていません。

被害者の身元も犯人も特定できないまま、公訴時効を迎えています。

時効成立の有名事件㉒　八戸市女子中学生刺殺事件

1993年10月27日、青森県八戸市に住む中学2年生の女子が、自宅で何者かによって刺殺される事件がありました。

この事件は女子生徒が帰宅して、その後に母親が帰宅するわずか20分の間に起こっています。

窓ガラスが割れる不審な音なども近所に響いていましたが、犯人特定できず、2008年に時効を迎えました。

時効成立の有名事件㉓　東村山警察署旭が丘派出所警察官殺害事件

1992年2月14日の午前3時20分頃、東京都清瀬市の旭ヶ丘派出所内で警官が血を流して倒れているのが発見されました。

この警官の拳銃が奪われましたが、この拳銃は現在まで使われた形跡はなく、拳銃マニア・警察マニアの犯行とも言われています。

犯人は特定できず、2007年2月14日に公訴時効を迎えました。

時効成立の有名事件㉔　前尾道市長夫婦殺人事件

1980年2月、贈収賄容疑で逮捕されていた前尾道市長夫妻が自宅の寝室で何者かに首をかき切られて死亡していました。

被害者の前市長は医師であり政治家という経歴、また贈収賄で逮捕されたことなどから、怨恨の可能性も噂されました。

しかし、犯人の特定には至らず、1995年に公訴時効となりました。

時効事件のまとめ

時効の基礎知識や時効の期間一覧、いつから殺人事件の時効は廃止になったのか？、時効成立の有名事件一覧や詳細をまとめました。

時効を迎える事件はたくさんあります。でも、被害者や遺族にとっては、時効を迎えても犯人が捕まらないことには、心の整理をつけることはできません。

少しでも未解決事件・時効を迎える事件がなくなるといいですね。