1987年にブラジルで発生した原子力事故「ゴイアニア被曝事故」が注目されています。
ここでは「ゴイアニア被曝事故」の原因や真相発覚までの経緯を振り返り、事故の場所や事故現場の現在、YouTube漫画化、ドキュメンタリー映画やアンビリバボーなどで取り上げられた事などについてまとめました。
この記事の目次
ゴイアニア被曝事故とは
「ゴイアニア被曝事故」とは、1987年9月にブラジルのゴイアス州の州都・ゴイアニアという都市で発生した大規模な原子力事故です。
このゴイアニア被曝事故は、移転のために廃病院となっていた医療施設「ゴイアニア放射線治療研究所」に放置されていた放射線治療装置から、放射性物質「セシウム137」が入った円筒のカプセル型の回転照射体(直径6〜7cmほど)が取り外して盗み出され、それが転売や中身(粉末状のセシウム137)の譲渡などによって何人もの人間に直接的または間接的に接触し、最終的に249人もの人間が被曝し、内4人が放射線障害で死亡するという大惨事を引き起こしました。
ゴイアニア事故の国際原子力事象評価尺度(INES)は、「事業所外へリスクを伴う事故」を示す、レベル5に指定されています。
ここでは、この「ゴイアニア被曝事故」についてみていきます。
ゴイアニア被曝事故の発生や被害が広がった原因
ゴイアニア被曝事故の発生の根本的な原因はまず、極めて危険な放射性物質「セシウム137」が、簡単に侵入可能な廃病院に放置されていた事です。
ゴイアニア被曝事故は、この放射性物質「セシウム137」の入った、医療器具を2人の現地の若者が盗み出したのが直接の原因となりました。
さらに、盗難された放射性物質を含む医療器具が、その正体が何かわからぬままに転売され、中から取り出されたセシウム137の粉末が、ほのかに光る特性が人々の関心を集めた事も放射能汚染が広がった原因となりました。
当時のブラジルは非常に治安が悪く(現在も治安が悪いのは変わっていない)、貧困に苦しむ人々による盗難事件や盗品の売買が日常茶飯事となっており、こうした状況からゴイアニア被曝事故は起こるべくして起こった事故だと言えます。
また、この放射能汚染の原因となったセシウム137は粉末状だったため、風雨や動物への付着などを介して広がり、被害を広げる大きな原因となりました。
ゴイアニア被曝事故の真相発覚までの経緯
出典:https://m.folha.uol.com.br/
ゴイアニア被曝事故は、被害が出始めてからその真相が発覚するまでに時間がかかりました。真相発覚までに時間がかかった事も被害を拡大させた原因となりました。
ゴイアニア被曝事故の真相発覚までの経緯についてみていきます。
ゴイアニア被曝事故真相発覚までの経緯① 2人の若者がセシウム137を盗み被曝
1987年9月10日〜13日にかけて、現地の若者2人(19歳と22歳)が、移転のために廃院となっていた医療施設「ゴイアニア放射線治療研究所」に金目のものを盗み出すために侵入しました。2人の若者は、そこに放置されていた放射線治療装置から、放射線源である「セシウム137」が内包された回転照射体(円柱カプセル型の容器)を取り外して盗み出しました。
2人の若者のはこの段階で被曝しており、9月13日に嘔吐の症状が出ますが食あたりと考えて放置しています。14日には若者の1人に下痢、左手に浮腫などの症状が出はじめ、15日に病院で診察を受けていますが、食物アレルギーと診断されてしまいます。
ゴイアニア被曝事故真相発覚までの経緯② 放射能汚染が拡大
9月18日、若者のうち1人が自宅の庭で「セシウム137」が内包された円筒型のカプセル容器にドライバーを使って穴を開け、粉末状のセシウム137を取り出してしまいます。この時点で地域への放射能汚染が始まったとみられています。
同日、2人の若者は地元の解体業者にこのセシウム137が内包された容器を中の「セシウム137」ごと売り払っています。その日の夜、解体業者はこの円筒型の容器内の粉末が暗いガレージの中で青白く光っている事を発見して興味を持ち、容器ごと家に持ち帰ります。
9月19日から3日にわたり、解体業者は家族や親族に光る粉末(セシウム137)を見せています。
9月21日、解体業者の弟の友人が容器にドライバーで穴を開けて中の粉末状のセシウム137を取り出し、その友人と解体業者の弟は家に粉末を持ち帰っています。また解体業者は他の親族にもこの粉末を配ってしまいます。彼らはカーニバルの衣装にこの粉末をつけて光らせようと考えたようです。
9月21日〜23日にかけて、解体業者の妻(当時38歳)に嘔吐と下痢の症状が表れます。この時解体業者の妻は病院に行っていますが、食物アレルギーだろうと診断されてしまいます。
また、22日〜24日にかけて、解体業者の従業員2人が、セシウム137の容器から鉛を抽出する作業中に被曝しています。
一方、セシウム137の容器を盗みだした若者の1人が9月23日、皮膚に浮腫などの放射線皮膚炎の症状が出て入院していますが、こちらでも誰も事の真相に気がついておらず、入院4日後に熱帯病病院へ送られています。
9月24日、解体業者の弟はもらったセシウム137の粉末を食卓に置いたまま食事をし、当時6歳の娘に至ってはこの粉末に触れたままの手で食事をとっています。
9月25日、解体業者はセシウム137の容器と取り出した鉛を他の業者に転売。このようにして放射能汚染が広がっていきました。
ゴイアニア被曝事故真相発覚までの経緯③ 2週間後にようやく原因が判明
9月28日、解体業者の妻は、光る粉末(セシウム137)が体調不良の原因であると確信し、セシウム137の容器を持って地元の保健当局事務所へ行って事の顛末を話し、容器を見せて「これが私たちを殺そうとしている」と訴えました。
しかし、話を聞いた医師は取り合わず、2人を熱帯病病院へと送り、セシウム137の容器を事務所の庭に放置します。
この頃、熱帯病院では同様の症状の患者が数人出ており流行性熱帯病と診断されていましたが、数名の医師がようやく、この症状が放射能汚染によるものではないかと疑い始めていました。
29日、偶然ゴイアニアに来ていた放射線医学の専門医が、熱帯病院の医師らからの相談を受け、保険当局事務所を訪れました。すると、建物の前で線量計の放射線測定器の針が振り切れ、故障かと思い予備の線量計でも測定したところ、これも針を振り切りました。これによってようやく、地域で頻発している症状の原因が放射線によるものという真相が判明したのでした。
ここまで真相発覚に時間がかかったのは、まさかこのような場所に放射線源が放置されているとは思われなかった事に加えて、衛生状態の悪かったブラジルの貧困地域では、食中毒や熱帯病が日常的に発生していた事なども原因だったと考えられます。
ゴイアニア被曝事故真相発覚までの経緯④ その後
真相発覚後、事故の最初の原因となったセシウム137の容器を持ち出した若者2人の家、解体業者やその弟の家など合計7棟の家屋が解体され、汚染地域の表土の入れ替えなどの除染作業が行われました。
10月23日に、解体業者の妻(当時38歳)と解体業者の弟の娘(当時6歳)が死亡。
10月27日と28日に、セシウム137容器から鉛を抽出する作業をした、解体業者の従業員2人が(当時22歳と18歳)がそれぞれ死亡しています。
セシウム137の容器を最初に盗み出した2人の若者のうち1人は治療のために右腕を切断を余儀なくされ、もう1人も右手の指何本かの切断を余儀なくされています。
ゴイアニア被曝事故の場所
出典:https://atomica.jaea.go.jp/
ゴイアニア被曝事故の起こった場所は、ブラジルのゴイアス州の州都・ゴイアニアで、この場所はブラジルの首都のブラジリアの南西約210キロに位置しています。
セシウム137が持ち出された医療施設跡
ゴイアニア被曝事故が発生原因となったセシウム137が内包された医療機器が放置されていた医療施設の場所は、放射能汚染は確認されておらず、現在は市民センターが建てられています。
ゴイアニア被曝事故現場周辺には現在も人が住んでいる
ゴイアニア被曝事故の現場となった解体業者の自宅と解体工場があった場所は現在も空き地となっています。ただ、この現場周辺にはビッシリと家屋が建ち並んでおり、人々は通常通り生活を続けています。
ゴイアニア被曝事故の漫画化動画
ゴイアニア被曝事故を漫画化したYouTube動画も多数作成されています。細かい経緯や漫画描写は事実とかなり異なるものの、漫画絵と音声でわかりやすく紹介されており、ざっくりとゴイアニア被曝事故の流れを理解できます。
ゴイアニア被曝事故の映画「セシウム137:ゴイアニアの悪夢」
上の動画は、ゴイアニア被曝事故のドキュメンタリー映画「セシウム137:ゴイアニアの悪夢」です。日本語字幕はありませんが、映画の映像を見るだけで「ゴイアニア被曝事故」の恐ろしさや悲惨さが十分に伝わります。
ゴイアニア被曝事故はアンビリバボーなど日本のテレビ番組でも何度も特集
ゴイアニア被曝事故は、「奇跡体験アンビリバボー」などの日本のテレビ番組でも何度も特集されています。
広島長崎への原爆投下や、福島の原発事故などを経験した日本人にとって、原子力事故は切実な問題であり、このゴイアニア被曝事故も「アンビリバボー」などの、多くのドキュメンタリー系番組で取り上げられた事で一般の人々にも広く知られています。
Wikipediaの怖い記事を見てて「ゴイアニア被曝事故」を思い出した。
— +++ (@nananan_san) March 23, 2018
昔アンビリーバボーで再現ドラマを見たんだけど、無知は罪だなと…
反射して光るとかではなく、自らが光る物質は大体ヤバい。
ひぇぇええ((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
— 伸治 (@shinji_96296) July 19, 2019
もはや本当にあった怖い話だろ、これ((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
昔アンビリーバボーで紹介されてた青く光る石の正体がセシウムだった(詳しくはゴイアニア被曝事故で検索)という話並に怖いよ! https://t.co/hcL6XWlW97
まとめ
今回は、1987年にブラジルで発生した大規模原子力事故「ゴイアニア被曝事故」についてまとめてみました。
「ゴイアニア被曝事故」は、廃病院となった放射線医療施設に放置されていた放射性物質「セシウム137」が内包された容器が盗み出され、それによって249人が被曝し内4名が死亡するという深刻な被害をもたらしました。
被害者が出始めてから真相が判明するまでに時間がかかり、放射能汚染が広がった事故としても知られています。
「ゴイアニア被曝事故」は、YouTubeでの漫画動画化や、ドキュメンタリー映画化、アンビリバボーなどのドキュメンタリー系番組などで紹介されており、一般の人々にも広く知られています。
広島長崎への原爆投下や福島原発事故などを経験した日本人にとって、原子力事故は極めて切実な問題といえ「ゴイアニア被曝事故」は決して遠い外国で起きた他人事ではありません。今後2度と悲惨な原子力事故を起こさぬよう、これからの原子力のあり方について真剣に考えていきたいものです。