「アナタハンの女王事件」とは、孤島に取り残された32名の男が、比嘉和子という1人の女性を巡って争い、不審死や行方不明者が続発した事件です。
今回は、多くの謎に包まれた「アナタハンの女王事件」の真相、生き残りや比嘉和子の子供やブサイクの噂、その後についてまとめました。
この記事の目次
アナタハンの女王事件とは
「アナタハンの女王事件」とは、太平洋戦争（第二次世界大戦）末期の1945年から1950年頃にかけて、サイパン島の北117キロほどに位置する孤島アナタハン島で発生した連続死亡事件です。
アナタハンの女王事件が起きた背景
当時、アナタハン島を含む南洋群島（北マリアナ諸島、パラオ・マーシャル諸島など）は第一次世界大戦の戦勝国となった際に日本がドイツから割譲された委任統治領で、国策によって設立された南洋興発という企業が進出していました。
アナタハン島には、その南洋興発から比嘉菊一郎とその部下・比嘉正一（姓が同じなのは偶然）がが現地民を労働力として椰子畑の経営事業を任されていました。
比嘉菊一郎は妻と子供を、比嘉正一は妻の比嘉和子を伴って移住し経営にあたっていましたが、太平洋戦争の勃発と激化に伴い、比嘉菊一郎は妻と家族を付近のサイパン島に移住させており、その後、比嘉正一はサイパン島にいる妹を迎えに行ったまま島に戻れなくなり、さらに現地島民も退去してしまっため、結果として島には比嘉菊一郎と比嘉和子の2人が取り残される事になりました。
付近で漁船が米軍機に撃沈され31人の男達が流れ着く
1944年6月、マリアナ諸島への輸送任務についていた徴用船3隻が米軍機の爆撃を受けて撃沈され、その乗員の海軍兵士や軍属がアナタハン島に流れ着き、またその後、戦争の経緯で島に居合わせた陸軍兵士らも加わり、合計31人の男達が、比嘉菊一郎と比嘉和子と合流し、外部との連絡の途絶えた絶海の孤島で共同生活を営む事になりました。
当初、比嘉菊一郎と比嘉和子は、状況を判断し、夫婦のふりをして彼らから離れて同居し、31名の男達もそれぞれの船ごとに集団を作り生活していました。
不可解な死亡が相次ぐ
1945年8月、日本政府は「ポツダム宣言」を受諾し、太平洋戦争は日本の敗戦により終結します。
敗戦直後にアナタハン島に向けて、米軍による拡声器での投降呼びかけが行われましたが、彼らは日本の敗戦を信じず、罠だと思い込んで島から出ようとはしませんでした。アナタハン島は日米両政府からも忘れ去られ、日本の敗戦を知らぬまま、1人の女と32人の男による原始人のような共同生活が続けられたのでした。
島に残された男らは、ほとんどが10代から20代の若者で、有り余る性欲からか、彼らは比嘉和子という1人の女をめぐって争いを起こすようになり、行方不明者や何者かに殺害される者が続出し始めます。
敗戦から約5年後の1950年6月、比嘉和子がアメリカ軍船に救助されてアナタハン島から脱出。1951年6月には残りの男達も救助されますが、この時までに実に13名の男が死亡、行方不明となっていたのです。
センセーショナルに報じられ「アナタハンブーム」が巻き起こる
アナタハン島に取り残された人々が帰国すると、島での出来事が、1人の女によって惑わされた32名の男達が殺し合いをした事件として各メディアがセンセーショナルに報じました。
比嘉和子は「アナタハンの女王」と呼ばれるようになり、そのブロマイド写真は飛ぶように売れ、アナタハン島での出来事を描いた舞台で自ら主演もしています。
「アナタハン」という言葉も流行語になり、「長らくご無沙汰していた」という意味で「長らくアナタハンしておりました」など挨拶がわりに使われるのが流行りになりました。
その後、「アナタハンの女王事件」は、映画化や書籍化もされ、熱狂的な「アナタハンブーム」はその後しばらく続く事になります。
「アナタハンの女王事件」には多くの謎が残されている
「アナタハンの女王事件」は戦争最末期から戦後の混乱期にかけ、外部との連絡の途絶えた絶海の孤島で発生した事件であり、その事件の顛末は生き残り達の証言によって語られたものでした。
彼らの証言はそれぞれに微妙に異なり、当時、アナタハン島で本当に何が起こっていたのか？その真相はいまだに多くの謎を残したままです。
アナタハンの女王事件の真相
アナタハン島で本当は何が起こっていたのか？「アナタハンの女王事件」の真相について、さらに詳しく見てみましょう。
アナタハン島では1945年8月の終戦までに、2人の死者が出ていましたがどのような経緯で死亡したのかについては明らかにされていません。
ピストル2丁を手にした事でパワーバランスが崩壊
1946年8月、彼らは、アナタハン島に墜落していた米軍の戦略爆撃機B29の残骸を発見。その残骸の中から4丁のピストルを発見した海軍軍人2名は、それを分解して組み立て直し2丁の発射可能な拳銃を手に入れます。
海軍軍人2名がピストルを手にした事で島内のパワーバランスは崩壊。ほどなくして、海軍軍人らと仲の悪かった1人の男が木から落ちる事故で不審死を遂げます。これは事故死とされましたが、海軍軍人らがピストルでこの男を脅して転落死させたのではという疑心が島内に広がりました。
さらに、1947年秋頃、ピストルを所有する2人の海軍軍人がヤシの実から作った酒に酔って比嘉和子を巡って喧嘩となり、1人がもう1人を射殺してしまいます。
この事態を見た比嘉菊一郎は、比嘉和子の夫を装っている自分の身も危ないと感じ始め、ピストルを奪ってもう1人の海軍軍人も射殺。現場にいた比嘉和子と口裏を合わせ海軍軍人は誤って海に転落したと偽ります。
比嘉菊一郎も殺害される
それから数ヶ月後、今度は比嘉菊一郎が変死体で発見されます。菊一郎を殺害したのは元コックの男で、比嘉和子を奪うために殺害に及んだとされますが、比嘉和子が菊一郎からの暴力に耐えかね、この元コックをけしかけたとも言われています。
比嘉和子と元コックは、菊一郎の遺体を埋葬した後、「菊一郎は食中毒で死んだ」と周囲に偽り、その後、2人は夫婦のような関係になっています。
さらに不審死が続発
それから2年後、今度はこの元コックの男も行方不明に、さらに男らが次々と不審な死を遂げ、男性の数は23名にまで減ってしまいます。この状況を危惧した生き残り達は、比嘉和子に1人を選ばせて正式に結婚させようという事になり、和子と和子の選んだ若い水夫との結婚式が行われました。
比嘉和子の逃亡によりアナタハンの女王事件がついに発覚
しかし、結局それでも島内の諍いは治らず、比嘉和子がこの島にいるのが全ての元凶であると悟った生き残り達は、比嘉和子を処刑する事を決めます。1人の男がこの決定を比嘉和子に密かに伝えた事で、比嘉和子は近くに来ていた米軍船に助けを求めて逃亡。比嘉和子の口から島内の様子が語られた事で「アナタハンの女王事件」はついに明るみに出たのです。
アナタハンの女王事件の生き残りは32人の男性中わずか19名
比嘉和子が島から脱出したのは1950年6月でしたが、それから1年もの間、残された男らは島内での生活を続け、1951年6月についに全員が投降に応じアナタハン島から帰国しています。この時救出されたのは19名で、13名は死亡、もしくは行方不明となっていました。
アナタハンの女王事件の比嘉和子はブサイク？
多くの男性を惑わし殺し合いをさせた魔性の女のように語られた「アナタハンの女王」こと比嘉和子でしたが、現代のネット社会で比嘉和子の顔写真が拡散されると比嘉和子はブサイクという声も多く出ているようです。
ネットでは「こんなブサイクのために殺し合いとか信じられない」「このブサイクの相手するなら殺された方がマシ」など、散々な言われようです。
「アナタハン島」で本当に何が起こっていたのかがはっきりしないため、これに関しては何とも言いようがありませんが、比嘉和子のビジュアルが多くの男をたぶらかした魔性の女のイメージとはかけ離れていたため、そうした意見が出たのでしょう。
比嘉和子が悲劇の女性である事は間違いないため、あまり悪くいう事はやめましょう。
アナタハンの女王事件の比嘉和子の子供は？
比嘉和子は、アナタハン島で複数の男性と夫婦関係を結び、性的行為も行なっていましたが、子供が生まれたという話はないようです。
ただ、正式な夫である比嘉正一との間に子供が出来たことがあるものの、空襲のショックで流産となってしまい、それ以降は子供が出来ない身体になってしまったという話はあるようです。
これについても真相は不明なのですが、アナタハン島での経緯を考えれば、比嘉和子は子供が出来ない身体だったという事は間違いないと考えられます。
アナタハンの女王事件の比嘉和子のその後・現在とは
「アナタハンの女王事件」がブームになる中、その中心人物たる比嘉和子は一躍時の人となり、世間からの注目を集めました。比嘉和子の「アナタハンの女王事件」のその後について紹介します。
女優として舞台や映画に出演
男をたぶらかした魔性の女として好奇の目に晒された比嘉和子でしたが、それを逆に利用する形で、1952年からは舞台「アナタハン島」に出演して全国巡業しています。翌1953年に公開された、日本初の女性監督・吉田とし子監督による映画「アナタハンの眞相はこれだ！！」に比嘉和子自らがヒロイン役として出演していますが、映画の内容はB級的なトンデモ映画で、比嘉和子の素人演技も合間って随分と批判されたようです。
なお、「アナタハンの女王事件」をテーマにした映画はこの他にも製作されています。1953年6月28日に公開された「アナタハン」は、アメリカの人気映画監督・ジョセフ・フォン・スタンバーグがメガホンを取った作品でした。事実に忠実に作られた作品でしたが、残念ながらヒットとはなりませんでした。
出典：https://movies.yahoo.co.jp/
近年では、「アナタハンの女王事件」をモチーフにした桐野夏生さんの小説「東京島」が映画化され、女優の木村多江主演でヒットを記録しています。
食堂「アナタハン」を開いた後、ストリッパーとして活躍
その後、ブームが落ち着きを見せ始めると、比嘉和子は、地元の沖縄へ帰り、南宋楼という旅館で仲居として生計を立てた後、「アナタハン」という名前の食堂を開き商売を始めています。
その間もメディアは比嘉和子を「稀代の毒婦」「女王蜂」などと嘲って書き立て、そうした報道に耐えきれなくなった和子は本土へと渡り、ストリップ劇場（浅草ロック座にも出演した）への出演。比嘉和子の名前を利用しようと興行師が群がり、散々に傷つけられた和子は再び沖縄へと戻ります。
再婚してたこ焼き屋を開いた後、51歳の生涯を閉じる
その後、34歳になった比嘉和子は、2人の連れ子のいる男性と知り合い再婚。名護市の学校の目の前でたこ焼きや（夏はかき氷屋）を営み、その店はとても繁盛したそうです。その9年後に夫は亡くなりますが、2人の旦那の連れ子とはとても仲の良い関係を築いていたそうです。
1974年、比嘉和子は脳腫瘍を患い、51年の波乱の生涯に幕を閉じました。最後の言葉は2人の連れ子に向けた「愛情が少なくてごめんね」という言葉だったそうです。
まとめ
今回は、終戦直前の1945年から1950年にかけて、マリアナ諸島の「アナタハン島」で起きた「アナタハンの女王事件」についてまとめてみました。
「アナタハンの女王事件」は、比嘉和子という1人の女性と32名の男性がアナタハン島に取り残され、次第に男達が比嘉和子を巡って争うようになって不審死や行方不明者が続出。救出された時には、男性は19名にまで減っていたという衝撃事件でした。
当時のメディアはこの事件を面白おかしく報じ、中心となった比嘉和子は一躍時の人となりました。比嘉和子は舞台や映画に出演しブロマイドは飛ぶように売れ、「アナタハン」という言葉は流行語になるなど日本中に「アナタハンブーム」が巻き起こりました。
しかし、比嘉和子は「毒婦」「女王蜂」などと蔑まれ、ブームが過ぎ去るとストリップ劇場への出演や、「アナタハン」というカフェを経営するなどして生計を立てました。
その後、比嘉和子は結婚して地元の沖縄名護市でたこ焼き屋を営み、51年の波乱に満ちた人生を終えました。「アナタハンの女王事件」は当時は面白おかしく報じられましたが、現代から振り返ってみれば、戦争が生んだ悲劇的な事件だったと言えるでしょう。
