宇宙飛行士・スペースシャトル・宇宙開発。これらの言葉は、夢が膨らむ近未来的な印象を持ちますし、宇宙開発が進んでいるのを見ると、なんかワクワクしますよね。
でも、宇宙開発はまだまだ危険と隣り合わせのものであり、重大な事故が起こっています。
スペースシャトル・コロンビア号空中分解事故の概要と事故の原因、死者、回収された残骸、最後の音声、救出の可否、テロの可能性、その後と現在をまとめました。
この記事の目次
スペースシャトル・コロンビア号空中分解事故の概要
出典：iss.jaxa.jp
コロンビア号事故とは、2003年2月1日にスペースシャトル「コロンビア号」が大気圏突入の際に空中分解して、搭乗していた宇宙飛行士7名が犠牲になった事故です。
このスペースシャトル「コロンビア号」は28回目の飛行でした。16日間のミッションを終え、予定ではあと16分でフロリダのNASAのスペースシャトル帰還施設に着陸する予定という時に、コロンビア号は空中分解します。
大気圏に再突入し、アメリカのテキサス州とルイジアナ州の上空に差し掛かった時、通信が途絶え、上空6万3000メートルで空中分解し、テキサス州の中央部から東部にかけて、隕石のような軌跡を描いて残骸が落下しました。
コロンビア号が地球に帰還する様子は全世界で生放送されていました。そして、コロンビア号が大気圏に再突入し、「さぁ！いよいよ、地球に帰還します！」という様子がカメラに映されていた時に、コロンビア号は空中分解し、まるで流れ星かと思うように光って爆発し、残骸が散らばっていったんです。
生放送中だったこともあり、全世界はコロンビア号の悲劇に息を飲み、大きなニュースとして取り上げられました。
事故後はすぐに緊急事態が宣言され、悲惨した破片・残骸を捜索し、事故原因の究明が進められました。
地上で見ていた人にもかなりの衝撃があった
出典：karapaia.com
コロンビア号は上空6万3000メートル付近で空中分解していることがわかっています。一般的な飛行機は高度10000m程度ですので、コロンビア号はその6倍以上の高さを飛んでいました。
でも、地上からでも、その爆発の様子を観察することができました。
テキサス州のハイウェイで車を運転していた人は、コロンビア号の空中分解事故を目撃しましたが、次のように語っています。
「空を横切って近づいてくるときは本当に明るく輝いていて、1つの塊だった。飛行機が太陽の光を反射しているんだと思った。するとそれが6つぐらいに分かれた――ぜんぶ火の球だった――そして木立の向こうに飛び去った」
また、地域住民は「ドーン！」という衝撃音と共に、振動も感じたと証言しています。
上空6万3000mという高度での空中分解が起こり、地上から肉眼ではっきり見え、さらに音や振動も感じるということは、いかにこのコロンビア号の事故が大きなものだったのか・激しいものだったのかがわかりますね。
スペースシャトル・コロンビア号空中分解事故の原因
スペースシャトル「コロンビア号」の事故原因は、打ち上げ時に発泡断熱材の破片が剥離したことです。
2003年1月16日に、コロンビア号はケネディ宇宙センターから宇宙に向けて打ち上げられます。この打ち上げの際に、空力で外部燃料タンクの発砲断熱材が剥がれて脱落します。この破片は、そこまで大きいものではなく、ブリーフケース程度の大きさでした。
しかし、この脱落した破片は粉々になり、左主翼前縁を直撃します。そして、スペースシャトル「コロンビア号」の熱防護システムを破壊してしまいました。
出典：jaxa.jp
スペースシャトルは宇宙から地球に帰還する時には、超高速で大気圏に突入します。事故を起こしたコロンビア号は、大気圏に突入した時には、マッハ24.5（30,012.5km/h、8.34km/s）の速度でした。
これだけ速い速度で大気圏に突入すると、すごい勢いで空気にぶつかります。そうすると、スペースシャトルに押しつぶされた空気は、分子同士が激しくぶつかり合うことで、大量の熱を発生させるんです。そのため、大気圏に再突入する時には、機体の温度は約1370度にも達します。
出典：iss.jaxa.jp
そのため、スペースシャトルは強化カーボン製のパネルなどで、熱から機体を守るための熱防護システムが設置されています。
コロンビア号では打ち上げ時に発砲断熱材が剥がれて、左の主翼前縁のパネルに当たったことで、パネルに直径15～20cmの穴が開いてしまいます。その穴から高温の空気（プラズマ）が左主翼の構造内に流れ込んでしまい、その熱で翼の構造材が溶けたり、強度が低下してしまいました。
事故を起こしたコロンビア号は再突入した際に、左主翼の温度が最高で1650度まで達していることがわかっています。
事故が起こる約7分前の午前8時53分には、コロンビア号が描く軌跡が突然明るくなるのを地上から目撃されていて、コロンビア号に何か異常が発生していることが地上からでもわかるようになりました。
そして、午前8時54分には、左翼と左の着陸装置のゲージが異常な高温に達して、安定感を失っていたことがわかっています。さらに、左側降着装置のタイヤの圧力が2つとも失われてしまいます。さらに、機体を操縦する油圧が完全に失われ、空中分解しました。
コロンビア号は打ち上げ時に熱防護システムが破壊されたために、大気圏再突入時の熱に耐えることができず、空中分解されてしまったというわけですね。
スペースシャトル・コロンビア号空中分解事故の死者は7人
出典：tz.de
コロンビア号の事故では、搭乗していた宇宙飛行士7人全員が死亡しています。
・軌道船操縦士：ウィリアム・マッコール
・搭載物指揮官：マイケル・アンダーソン
・搭載物担当技術者：イラン・ラモーン
・搭乗運用技術者：カリパナ・チャウラ
・搭乗運用技術者：デイビッド・ブラウン
・搭乗運用技術者：ローレル・クラーク
■リック・ハズバンド
コロンビア号の機長で空軍大佐、機械工学者。1999年にディスカバリー号に登場して、初めて国際宇宙ステーションとのドッキング業を行いました。宇宙名誉勲章を受章しています。
■ウィリアム・マッコール
海軍中佐であり、2800時間以上の戦闘機の飛行経験を持つ人物。コロンビア号ではパイロットを務めました。宇宙名誉勲章を受章しています。
出典：homomagi.de
■マイケル・アンダーソン
黒人の宇宙飛行士で、空軍中佐であり物理学者で、コロンビア号では科学実験を担当しています。1998年のエンデバー号に続いて、コロンビア号が二回目の宇宙でした。
■イラン・ラモーン
イスラエルの空軍大佐であり、イスラエル初の宇宙飛行士です。A-4、ミラージュIII、F-4を合わせて3000時間以上、F-16で1000時間以上の飛行経験を持ち、イラク原子炉爆破事件では最年少で参加した経歴を持っています。
コロンビア号でのミッションは主に科学関係のことを行っていました。
■カルパナ・チャウラ
インド出身の女性宇宙飛行士です。航空宇宙工学者、コロンビア号は2回目の宇宙飛行でした。
■デイビッド・ブラウン
海軍大佐で医師免許を持つ宇宙飛行士。ミッションスペシャリストとして参加し、ミッション中は科学実験を担当しました。
■ローレル・クラーク
海軍大佐で医師免許を持つ女性宇宙飛行士。ミッションスペシャリストとして、コロンビア号搭乗中は、生物実験を担当しました。
出典：flickr.com
この7人の宇宙飛行士は全員が死亡しています。遺体はコロンビア号の機体同様に空中分解したことで散らばっていましたが、可能な限り回収されています。
スペースシャトル・コロンビア号空中分解事故の残骸は回収された
出典：twitter.com
コロンビア号は上空6万3000m地点で空中分解し、隕石のような軌道を描いて、地上に落下しています。
コロンビア号が空中分解したとわかった後すぐに、ブッシュ大統領は、テキサス州東部を連邦災害地域に指定して、米連邦緊急事態管理局（FEMA）と環境保護局（EPA）のチームを緊急に派遣しました。
さらに、地元の警察官や郡警察、州兵、ボランティア、地元住民が捜索や警備に加わり、3mおきに並んで歩くなど、徹底した捜索が行われました。
捜索の結果、テキサス州のダラスから約290km離れたナカドーチェスで多くのものが回収されたほか、テキサス州とルイジアナ州だけでなくアーカンソー州にまで残骸は広がっていて、2000ヶ所以上でコロンビア号の残骸が回収されました。
約3ヶ月間の捜索で、回収された残骸は83743個、重量は38460kgとなり、スペースシャトル「コロンビア号」の約38％に達しました。残りは燃え尽きたり、回収できないほど粉々になってしまったと思われます。また、禁止されたにも関わらず、オークションなどにかけられたものもあったようです。
このほか2008年にコロンビアに搭載されていたコンピューターのディスクドライブに記録されていたデータが残っていたことが公表されたり、機体搭載ビデオが残っていたりしたことも分かっています。
そして、2011年にになって、干ばつのために水位が低下したナコドチェス湖北部から、直径約1.2メートルのタンクが泥に覆われた状態で見つかっています。
スペースシャトル・コロンビア号は救出できた？
出典：amazon.co.jp
打ち上げ直後に、すでに左主翼の熱防護システムが破損してしまったコロンビア号は、ある意味、打ち上げ直後に運命は決まってしまったとも言えます。コロンビア号に問題が生じていることは、コロンビア号が宇宙の軌道上にいる時から、数人のエンジニアによって指摘されていました。
しかし、NASAのマネージャーたちは”コロンビア号の乗組員にはその問題を修復する手段が無い”として、それ以上の調査を制限し、問題に蓋をしてしまったのです。
しかし、その後の調査でNASAが早い段階で正しい対策を講じていれば、コロンビア号の7人の宇宙飛行士たちは救出できたのではないかと結論付けられています。
出典：kut.org
救出方法は2つ。
1つ目は、スペースシャトル・アトランティスで救出しに行くというものです。通常、スペースシャトルを発射するには、準備に長い時間がかかりますが、この時はアトランティスが3月1日の発射に向けて準備されていて、2月10日には発射することができました。
そして、コロンビア号も2月15日までは軌道に残ることができたので、時間的には十分に救出することができたのです。
2つ目の救出方法は、宇宙で船外活動をしてコロンビア号の左主翼を修理するというものです。船外活動で修復できるかどうかは不確実でしたが、宇宙飛行士たちはあらゆる訓練をしていて、そのような修理訓練も行っていたため、理論上は可能であるとしました。
もちろん、その修復がうまくいくかどうかはわかりませんが、修復作業を行ったほうが、搭乗員7人が生還できる確率は高くなったはずだと結論付けられています。
スペースシャトル・コロンビア号空中分解事故の最後の音声
コロンビア号は空中分解する直前までNASAの管制室と通信でコミュニケーションをとっていました。最後の音声は午前8時59分32秒、つまり事故が起こる約30秒～1分前のことです。
コロンビア号：「了解・・・あー」
この通信が最後になって、その後は雑音になり、通信が途絶えました。コロンビア号の機長は「了解・・・あー」と話している声は焦っている様子はなく、平穏な声だったとのことです。つまり、事故が起こる30秒前になっても、コロンビア号の7人は異変に気付いていなかった可能性があるのです。
コロンビア号の残骸から見つかった発見された機体搭載ビデオでは空中分解直前の様子が記録されています。しかし、このビデオからも焦っている様子は全く見られず、穏やかにジョークを交わしながら、再突入作業を続けています。
スペースシャトル・コロンビア号空中分解事故はテロの可能性あり
コロンビア号の事故はテロの可能性があるという噂があります。これは、イスラエル初の宇宙飛行士イラン・ラモーンと関係があります。
このイラン・ラモーンはイスラエルの空軍出身の宇宙飛行士で、1981年に最年少でイラクの原子炉爆破事件に参加しているんです。
そのため、イスラエルとアメリカへの報復として、コロンビア号を爆破したのではないか？と言われています。ただ、これはあくまでも噂レベルのことであり、テロと関係するような証拠は出てきていません。
スペースシャトル・コロンビア号空中分解事故のその後と現在
コロンビア号事故が起こってから、その後はどうなったのか？現在の宇宙開発はどうなっているのかを見ていきましょう。
アメリカはシャトル計画を一時ストップ
出典：bbc.com
2003年のコロンビア号事故を受けて、アメリカのシャトル計画は一時的にストップしました。このシャトル計画が一時的にストップしたことで、国際宇宙ステーションの補給などはロシアのソユーズに頼らざるを得ない状況になります。
そして、コロンビア号事故から約1年経って、ブッシュ大統領は「宇宙開発の展望」を表明し、シャトル計画が再び動き出すことになります。とはいっても、すぐにスペースシャトルの打ち上げが行われるわけではなく、コロンビア号事故の後にスペースシャトルの打ち上げが行われたのは、2005年7月6日のこと。
2005年7月6日に打ち上げられたのはディスカバリー号であり、日本人宇宙飛行士の野口聡一さんが登場しました。このディスカバリー号は無事に地球に帰還しましたが、またしても断熱材がいくつか剥がれ落ちたことが確認されています。
宇宙飛行士の安全対策が決められた
コロンビア号の事故を受けて、NASAはその後に宇宙飛行士の安全をできる限り確保できるような安全対策を講じ、回復不可能な損傷が見つかった場合は救助活動ができるシステムが確立されました。
また、全てのミッションはISS（国際宇宙ステーション）に向けて飛行するときのみに限られ、必要になった場合はISSをシェルターとして利用できるようにしたんです。
シャトル退役後はアメリカから有人飛行がない
出典：gizmodo.jp
スペースシャトルは2011年7月の飛行を最後に退役しています。その後は、実はアメリカからの有人飛行がないんです。アメリカは、宇宙飛行士や搭載物を国際宇宙ステーションに運ぶだけでなく、地球を離れて月や火星まで到達できるような宇宙船を開発中です。
アメリカからの有人飛行がないため、2011年7月以降は、全ての宇宙飛行士はロシアのソユーズに搭乗しています。2011年から2019年まで、日本人の宇宙飛行士6人が宇宙に飛び立っていますが、全員ロシアのソユーズで宇宙に行き、地球に帰還しています。
2020年にアメリカの宇宙計画が動き出す？
出典：techwave.jp
2020年にアメリカの宇宙計画が進みだすかもしれません。アメリカの民間宇宙企業スペースXが開発中の「ドラゴン2」の実用化がもうすぐそこまで来ています。
無人飛行は成功していますので、あとは有人飛行実験が行われ、それが成功すれば、野口聡一さんらが搭乗する予定になっています。
スペースシャトル・コロンビア号空中分解事故のまとめ
コロンビア号事故の概要や原因、死者、残骸の回収、最後の音声、救出策、その後・現在をまとめましたが、いかがでしたか？
・7人の宇宙飛行士全員が死亡
・空中分解の原因は部品の欠落による熱防御システムの破壊
・たくさんの残骸が回収された
・救出方法はあった
・この事故の後、アメリカの宇宙開発は一度ストップした
宇宙開発はとてもワクワクするものですが、危険を伴うものです。「できる限りの安全対策は講じた」という安全第一で進めてもらいたいですね。
